【第九十五話】氷の軍勢 3
「おいおい……」
亀山 篭は、黒色のドラゴン・ニーズホッグと対峙していた。
「コレってあれか、『お前の相手は俺だ!』っていう少年漫画にありがちな……」
ニーズホッグは雄叫びを上げ、その鋭い爪を生やした大きな腕を目の前の人間に振り下ろす。
「そういうノリかよっ!?」
第六戦:亀山 篭VSニーズホッグ
「ここは……」
「…………」
黒井 麻央と筧 閃は、周りを見渡した。
一面の白色。氷のドームによって囲まれていた。
「おっと……一人、余計に入れてしまった……。力み過ぎたか?」
その中心。背丈が5メートルはあろうかという、色黒の『巨人』の男が一人。
「まあよい……」
その男は、『彼女』の姿を見据える。
「久しいな、元閣下。就任式以来か?」
万物を凍て付かせる、『氷界』を統べる王。
「……『氷王』」
第七戦:黒井 麻央&筧 閃VSユミル
「不知火さん……何で、君がここに……」
剣が首に触れていることよりも何よりも、秀はそこに動揺した。
剣を持つ手に力が掛かる。
「!」
秀は飛び退き、攻撃範囲から逃れる。
ほんの少し、首に切り傷を負ったが、そんなのは気にならない。
「……敵、なのか?」
秀は彼女にそう訊いた。
「―――『足止め』」
初めて聞いた彼女の声は、とても冷たく響いた。
(え……?)
次の瞬間、何が起こったか、秀には解らなかった。
彼女から目を離してなんか無い。
だが気が付けば、彼女はすぐ目の前にいて―――
「―――それが依頼」
秀は、斬られた。
「あ…ぐ……っ」
その場に膝を付く。
左肩から右の腰まで一直線にやられたが、致命傷とまではいかない程度。
目的が足止めである以上、不要に傷付ける必要は無い。いや、それ以上に何よりも『陽』の命令であるから。
この人物を殺す訳にはいかない。
不知火が秀の様子を見ていると、彼女は横から魔力を察知した。
よく知っている魔力。誰の物かは確認しなくても解る。
光魔法第四番の三『テラ・ルミナス』。
不知火はその場から10メートル程弾き飛ばされ、再び臨戦態勢に入った頃には、秀の姿は無く、あの魔力も消えていた。
「――――」
その人物は秀を抱えて、まだ崩れていない部屋に入った。
「待ってて、すぐ応急処置をするよ」
「南条君………君もこの校舎の中にいたのか」
南条 陽介は、苦笑いを浮かべた。
「うん……『彼女』の動向が気になったからね」
『彼女』。今の状況下では誰のことか、秀は感付いた。
「不知火さんのこと?」
「……そうだよ」
南条は手を休めることなく、『あること』を打ち明ける決意をした。
「秀君。君に聞いてほしいことがあるんだ。ぼくと……噤のことで」
秀は頷いた。