【第九十四話】氷の軍勢 2
「神谷先生……軽く状況説明してもらえますか?」
「1、校舎外50メートルに結界張られて救援要請不可。2、この校舎にいるのは俺達だけ。3、校長不在。以上だ」
「……解りやすい説明ありがとうございます」
はてさて、面倒なことになったもんだ。
「目の前の敵全部倒せ、ってことですか」
僕は教室に入り込んできた四人の姿をもう一度見る。強そうな人ばっか。
すると、校舎の壁にしがみ付いている黒いドラゴンが吼えた。
悪い予感しかしない。
ドラゴンは頭を大きく後ろに反らせてから、勢いよく校舎に頭突きをかました。
校舎の壁が一瞬、歪んで見えた次の瞬間に、大きな黒い頭が教室に侵入。
轟音が響く中、僕は何かがミシミシと軋む音を聞いた。ああ、何てこった。
僕らは崩れていく床と共に、下へと落ちていった。
「クケケケケ、さっさとおっ始めようぜ? ニンゲンよぉ」
瓦礫の中、『氷王』の四副官の一人・ギュンツは目の前の人間にそう言った。
「あ~……すっかりみんなとバラバラになっちまったぜ……」
トモダチは、体に付いた埃を払う。
「まぁ、とりあえず俺の相手はお前ってことでいいんだな。そういう分かりやすいの好きだぜ、俺」
第一戦:友枝 達貴VSギュンツ
「私達の任務は『足止め』!! しかし、殺しの許可は出ている!!」
四副官の一人・ミンデルは、目の前の人間に氷の銃を構える。
「容赦はしないぞ!!」
「……何だってのよ、もう」
ヒナは溜め息を吐いた。
第二戦:綿貫 雛VSミンデル
「御免遊ばせ?」
「……そういう展開か、これは」
四副官の一人・リスと神谷 良介は向き合う。
「戦いたくない、と言うのでしたら、別に構いませんことよ? わたくし達としては、時間が稼げれば、それで良いので」
「お前に一つ訊きたいことがある」
「何ですの?」
「お前、『雪女』だろ」
リスは目を丸くした。
「『妖怪』が何で『悪』に味方する。『妖怪』とは自然の権化。何にも染まらず、中立すべき『存在』だろ」
「流石ですわ。やはり同じ『妖怪』には判ってしまうのですわね」
「おい、質問に答えろ」
「『すべき』であって『強制』ではない……たったそれだけのことですわ。そんなことを言いますのなら、貴方も『善』に味方しているように見えますわよ?」
「俺はどっちにも味方してねぇよ。ただ、生徒の味方なだけだ」
「屁理屈ですわね」
「うるせ」
第三戦:神谷 良介VSリス
「ヴー……」
「おい、英雄。コイツは何だ?」
「雪男、ってやつじゃないッスか? 見るの初めてッスけど」
第四戦:海藤 魚正&清華 英雄VSウルム
「いててて……」
桐谷 秀は起き上がる。
「……何だこりゃ」
目の前に広がっているのは、巨大な真っ白い氷のドーム。かなり広い範囲を囲んでいるようだ。
中で一体、何が起こっているのだろうか。気になった秀は、壁に触れる。
「……結界か」
力尽くで、そう簡単に破れる物でも無さそうだ。
ならば、と秀は枷を外そうとしたその時。
背後から、首筋に冷たい物が触れた。
それが一体何なのか見なくたって分かる。
剣だ。剣が首に当たっている。
秀は、ゆっくりとその剣の持ち主の方へ振り向く。
「……何で、君が……?」
そこにいたのは。
「――――」
『無口その2』だった。
第五戦:桐谷 秀VS不知火 噤