【第八十九話】文化祭の話 前編
体育館。
『はい次は校長先生のお話です』
神谷先生はマイク越しに、棒読みで進行させる。
『あー、はいはい。ちゃんと入ってるな。よし聞け、てめぇら!!』
校長先生は手を高く振り上げ、学校中に響くかと思うような声を張り上げる。
『世の中は非情だ。努力を続けなけりゃ渡れねぇ。だが、努力をしても渡れねぇ奴がいる。力の無ぇ奴は切り捨てられる。だからこそ人間は世の柵を切り開く力を付けなきゃならねぇ。だがな、てめぇらはまだ若い。将来のこと考えるなんざ、もっと先でいい。もっと今を楽しめ! 至高の毎日を送れ! 自分の欲に忠実になれ!! カリカリ勉強してる奴は今日だけでも羽目を外せ!! 両手で希望という名の剣を握れ!! 守りは気にすんな!! 教科書なんざ足蹴にしやがれ!!』
体育館内が徐々に盛り上がって行く。
『今、ここに! 文化祭の開際を宣言する!!!』
全員が一斉に『うおー!』と掛け声を上げた。
「ちょっ、校長! あんたそれ生徒会長が言うことだから! 勝手に省くな!」
『ブワッハッハッハッ!! 気にすんな、んなこと!!』
こうして、僕らの学校の文化祭が始まった。
「ほいよ、これ」
富士田君から渡されたのは、時間とクラスの人の名前が書いてあるプリントだった。
「何なんだぜ、これ?」
トモダチが尋ねた。
「当番表。おれらのクラスだって出し物すんだよ、お化け屋敷。そこに書いてある時間帯の奴らで適当に役割決めろ」
そういえばそうだ。
こういうイベント系の事は、富士田君と足立君の二人が仕切ってくれるから任せっぱなしだったが、お化け屋敷だと二人でどうこうできる問題じゃあない。去年は美術展っぽいものをやったから、適当に絵を描いて渡せばいいだけだったのだが。
ところで、前日のお化け屋敷自体の製作も任せていたから、僕はどんなお化け屋敷になっているのか全く知らない。
「少し拝見……」
僕は教室の扉を開ける。
そこは何と言うか、別空間だった。まず足元に土が広がり、そこら辺に石ころや岩が置かれていて……一言で言って洞窟だ。暗くひんやりとした空気が肌に刺さり、その場にいるだけで鳥肌が立つ。ってかこれ絶対、教室の原形を保ってねぇよ。うん。
「高田とおれの地魔法でこの地形を造った。ついでに、高田の闇魔法で窓からの光はシャットアウト。冷房をガンガンにきかせて、雰囲気もそれっぽくした。篭の青魔術で空間もちょっといじったな」
高田君と篭も協力者か。
随分とまぁ、大掛かりなこった。
「でけぇとクリアまでの時間が掛かっちまうが、そこは一度に入れる客の数増やしたり制限時間つけたりすりゃ、問題ねぇだろ。あと、リタイアの場合はコレ使わせりゃいいしな」
富士田君は紙切れをピラピラとさせる。
何か変な模様が書かれている。前に似たような物を見たな。あれは確か……『悪魔の城』の時か。
「まぁ……そこら辺はその時間帯の担当の奴らで話し合って自由に決めりゃいい。時間によってルールが変わるのが売り文句ってことで。そうすりゃ、一回来た奴ももう一回来るかもしれねぇしな」
上手いな。素性さえ明かさなければ、表の世界のどこかしらの企業にでも就職できるんじゃないだろうか。
「あと言っておくと、絶対遅れんじゃねぇぞ。結構、人手少ねぇしな」
僕はもう一度プリントを見る。僕が担当する時間帯は一番最後だ。
時間は充分にあるし、ゆっくり見て回るか。
「フヒヒ……何だろうね、何か楽しいことがしたいねぇ……」
魔女は辺りを見渡す。
「ああ、ここなんか良いねぇ。私の力がよく出せそうだ……フヒヒ」
魔女は笑い、その空間へ入り込む。
誰にも気付かれず。ただ静かにゆっくりと。