表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の世界  作者: Sal
86/172

【第八十六話】くじ引きBOX 3

 人生は苦の連続である。


 誰だったっけな、この言葉を残したのは。


 僕は最近、この言葉は正しかったと痛切に感じている。



「おい、秀。トランプやらねぇ?」


 そう言ってきたのはトモダチだった。


「ん……そうだな、最近やってなかったし、やるか」


 色んな騒ぎがあってやる暇があまりなく、やるような心境でもなかったため、最近はめっきりやっていなかったが、騒ぎも一応落ち着いたわけだし、息抜きという意味でやったっていいだろう。



 篭と麻央さんも誘って、放課後の誰もいない教室に集まった僕らは、恒例のアレを取り出した。


「コイツを使うのも久しぶりだな」


 段ボールで造られた立方体。人の手が入るくらいの穴が空いており、中にはゲームの名前が書いてある紙切れが十数枚入っている。



 そう、『くじ引きBOX』である。



「結構ホコリ被ってるね」


 麻央さんが言った。


 そりゃ、教室の棚に入れっぱなしにしてればそうなるな。まぁ、そのおかげとも言うか、あの一件があってもこうして無傷で生き残ってるわけだが。


 軽くホコリを手で払ってから、僕は箱に手を突っ込んだ。


「さぁ、何が出るか!?」


 トモダチが煽る。


 僕としては『七並べ』がやりたいところだが、トランプ自体久しぶりにやるわけだし、いきなり一人勝ちになるのは気乗りしない。かと言って『大富豪』になってコイツにされるのも忍びない。まぁ、その二つ以外だったら特に問題はないしどれでも―――



「ひゃあああああああああ!? く、くすぐったいのです、やめてくださいい!!」



 その瞬間、全てがフリーズした。


 一体何が起こったか。いや、改めて考えなくても解る。


 叫び声が聞こえたのだ。この『くじ引きBOX』から。


 ちらっと周りを見てみれば、みんな何か得体の知れない物を見たような顔で『くじ引きBOX』を見てたが、この箱に手を突っ込んでいる僕はもっと変な顔をしていただろう。


 何が何だかよく解らないが、僕はまず箱から手を抜いた。


 するとどうだろう。『くじ引きBOX』からぼんやりとした青白い光を放つ煙のようなものが出て、人の姿を形成していく。そして、光が薄れるにつれだんだんと実体化していき、やがてソレは教室の床にすうっと着地した。


 ソレは、着物を着た女の子だった。


「は、はうー……みなさん、あまりこっち見ないでほしいのです……」


 とりあえず、何から突っ込めば良いのだろう。色々言いたいことがありすぎてなかなかまとまらないが、一つだけまず一番最初に訊きたい疑問が浮かび上がった。



「誰だお前?」



 僕の気持ちを代弁したのは篭だった。


「はうー……この『依代よりしろ』の『付喪神つくもがみ』なのです……」


 『付喪神』とな。


 『付喪神』ってアレか。あの『付喪神』か。あの『付喪神』なのか。


「その『付喪神』なのですよー……」


 思わず声に出てたらしい。


「仮に君の言うことを信じたとして……『付喪神』って百年くらい経った日用品とかに宿るんじゃなかったっけ?」


 造って2年も経ってないような段ボールに宿るとは到底思えないのだが。


「はうー……わからないのですー……わたしも気付いたらこの『依代』に憑いてたのですよー……」


「そりゃいつ頃からで?」


「お、覚えてないのです……」


 ……何だこりゃ、話にならない。


 誰か、このとてつもなく気まずい状況を打開出来る者はいないものか。



「……ふん、妙な霊力を感じると思ったら……これはまた珍しいものが紛れ込んでいるな」



 僕らは、その声の主に振り向いた。


 他の人達より肌の色が白く、あの肝試しの晩に僕と麻央さんに人外の『存在』であることを明かした人物がそこにいた。


「ああ、ハクじゃねぇか。どうしたんだぜ?」


 トモダチがハク君に言い寄る。


 そういえば、コイツと篭はあのことを知らないのか? となると、なるべく黙っておいた方がいいのだろうか。


 ふと麻央さんの方を見ると、麻央さんもこっちの様子を伺っていた。多分、向こうも同じ事を考えているのだろう。


 僕は適当にアイコンタクトを送った。


「俺はこの手のことは専門分野だ。気になって来ただけだ」


 ハク君は、『くじ引きBOX』の『付喪神』を凝視する。


「ひいっ……」


 何か物凄く怖がってるよ、相手。


「なぁ、ハク。『付喪神』ってことはこいつは神様の一柱なのか?」


 篭が尋ねた。


「……ふん、知らんな。『付喪神』にも種類はある。神霊が宿ることもあれば、ただの人魂が宿ることもあり、『妖怪』と化す場合もある。ただ……」


 ハク君は僕らの方を向く。



「こいつは少し特殊だ」



「……何がだ?」


「こいつから感じられるのが霊力である以上、妖力を操る『妖怪』ではない。つまり、自然的に生まれたものでない。となれば霊魂憑依によるものだろうが、こいつはその時の記憶が何もないようだ」


 当の『付喪神』はずっとおどおどしていて、話を聞いていないようだ。


「何のために存在しているのか、何の因果でいるのか何も覚えていない、不安定な『存在』だ―――」


 そう言ってから、ハク君はその言葉に付け加えるようにボソッと言った。


 小さすぎてトモダチや篭には、言ったかどうかすら解らなかったと思うが、僕には確かに聞こえた。



 『俺のようにな』と。



「あの、ハク君? 『付喪神』ってこんな箱とかにも憑くものなの?」


 麻央さんが訊いた。


「例の一件以来、この学校は霊的なものが集まりやすい環境になっている。そこら辺の物に憑いたとしてもおかしくはない。どのような所以ゆえんかは知らんがな」


 例の一件。その言葉が出た時、一瞬だけ麻央さんの顔がゆがんだが、すぐにいつもの表情に戻った。


盂蘭盆うらぼんになれば、恐らくさらに霊の量も増すだろう。俺も少し手を打っておくとする」


「……で、ハク君。この人どうすんの?」


 僕は挙動不審の女の子を指差して言った。


「俺は特に何もしない。害は無いだろう。普通に接してやることだ」


「よ、よろしくお願いしますー!」


 やっぱそうなるのね。


 何だかこの女の子が憑いてると考えると、今後『くじ引きBOX』を使うのに躊躇しそうだ。


 本当、めんどくさいことになったな……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ