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僕の世界  作者: Sal
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【第七十九話】激動編:一連の終わり

「ああ、いたいた。足立君、こっち」


「南条てめェ、走んの遅ェんだよ……大体、こっち来るまでいつまでかかってやがんだァ?」


「いや……足立君。確かにこっちに来るのに時間かかったけど、ぼく普通に100メートル走16秒台だよ? 決して遅くないよ? っていうか、話す前にこの二人を運ぼうよ。ちょっと二人とも危ない状態だよ?」


 南条と足立は、倒れている秀と妖狐を見て早く保健室に運ぶ必要があると判断したが、秀はまだいいとして、巨大な狐の姿をしている妖狐をどうやって運ぶか悩んでいた。ここから校舎までは、そこそこ遠い。


「お困りみたいだぜ、篭?」


「ああ」


 すると、トモダチと篭がやって来た。


「あっ、トモダチ君。篭君」


「てめェらも終わったか」


「まぁな」


 そう言うと篭は何やら魔術陣を地面に書き始める。


 南条は篭が何をしているのか気になり、覗き込む。


「青魔術陣だ。これで一気に学校まで飛ばす。向こうも大方騒ぎは収まってるみたいだし、大丈夫だろ」


 篭は青魔術陣を書き終えると、トモダチと足立の二人に指を向ける。


「付き添い人が必要だ。お前ら二人に頼んでもいいか?」


「あァ」


「わかったぜ」


 篭は、青魔術で秀、妖狐、トモダチ、足立の四人を転移させた。











 学校の廊下。


「グアァァ……!」


 クロセルは聖剣による一撃を食らい、校舎の壁を破壊して外に飛び出し、一旦形勢を立て直す。


「ンな馬鹿なっ……! 何で『ガーネット』までここに……!?」


 聖剣『アスンシオン』。


 その剣でクロセルを斬った本人、筧 閃こと悠木 菖蒲は悠然と立っていた。


「……結局、あんたも来たッスか。筧」


「『魔王』の方はどうしたんだ?」


「………その話は後」



 気付けば、『勇者』が三人そこに揃っていた。



「ハッ、まぁ別にいい。まとめて、てめぇらブッ殺してやる………!」


 クロセルは血反吐を吐きながらも、再び『エーリヴァーガル』を構える。


「………剣を仕舞った方がいい。………『魔装』はその強大な力故、己の体をむしばむ。………現に、ここ200年の『悪魔』はほとんど『魔装』を使用しない」


「うるせぇ……!」


 クロセルはありったけの魔力を魔剣に込め、『勇者』達に突進した。


「くそっ……!」


 魚正が構える。


 しかし、『ガーネット』が一歩前に出て、一言だけ言う。


「………下がっていろ」


 そして、手からもう一つの『聖装』を出現させる。


 聖盾『ユピテル』。


 そして、『エーリヴァーガル』の攻撃を受け止めた。


「………『ユピテル』は、ただ防ぐための盾では無い。………その最たる能力は――」


 『ガーネット』は、盾を持つ手にぐっと力を入れる。



「魔力の、反射」



 次の瞬間、クロセルは『エーリヴァーガル』に込めた自分の魔力によって吹っ飛ばされた。


「ちっ……、クソがぁ……っ!!」


 体を反転させ、地面に着地する。だが――


「………終わりだ」


 目に飛び込んできたのは、剣。


「!」


 一閃。


 クロセルは、その場に倒れた。



「おいおい、一人で終わらせちまったじゃねぇかよ……」


 魚正は筧との力の差を思い知らされて、若干へこんだ気持ちで言う。


「細かいことは気にしない方がいいッスよ、魚正。……まぁ、オイラも全然見せ場無かったッスけど」


「………今回は、『彼女』に掛けられた術を早急に解く必要があると判断した」


 筧は、眼鏡を掛け直して『勇者』達に向き直る。


「………『魔王』の方は、『彼』が何とかしそうだったから」


「ん? お前、その『彼女』に掛けられた術、ってどこで聞いた? 俺、さっきこの『悪魔』に教えられた事だったんだが……」


 『彼女』が誰なのか知らないが、魚正は一応訊いた。


 すると、筧の無表情な顔が魚正を見る。



「………ハッキング」











「終わったか、ネル」


「現在、戦闘用プログラムをアンインストール中。これより、ジェネラルモードに移行。其方そちらは」


 ネルは刃物と化している自分の腕などを戻しながら、フレディーに近付く。


「大方の修復は済んだ。つい先刻、掛けられていた幻術が解けたが、精神的ダメージが大きい。しばらく目は覚まさないだろう」


 フレディーは麻央の体を持ち上げる。


「学校へ運ぶ」


 フレディーは、歩き出した。


 そして、ネルも無表情のままその後を付いて行った。











「……む、そろそろお開きにせんといかんの」


「何だ?お前、まだ手の内全部出してねぇだろ。何で止めんだ」


 神谷 良介とザレオスは、まだ戦っていた。そりゃ、時々酒を飲んで休み休み戦っていれば長引く。


「残念なことじゃが、閣下がやられてしまったわい。しかも、Lv4の『悪魔』も立っているのはもうワシ以外おらん」


 ザレオスは困った様に頭を掻く。


「ワシらの負けじゃ。ワシはこれから、倒れとる『悪魔』も含めて撤退させんといかん。悪いがこの勝負、ここで止めじゃ」


「……そりゃしょうがねぇな」


 ザレオスは神谷に背を向ける。


「あんた、いい腕っぷしじゃった。いつかまた機会があれば、今日の決着をつけるかの。それから――」


 ザレオスはちらっと神谷の方を見る。



「河童によろしく頼むわい」



 そして、姿を消した。


 一人その場に残った神谷は、くわえていた煙草を地面に吐き捨て、靴でグリグリと火を消す。


「だから、河童がどこにいるか分からねぇって言ってんだろうが……」


 そう小さく呟いた。
















「…………」


 ここは――


「目ぇ覚ましたか、秀」


 トモダチが横から僕の顔を覗く。


 僕が寝ていたのは、寮部屋の僕の布団の上だった。


 ……って。


「麻央さんは!? それから、よーこさんはどうなった!?」


「落ち着け、いきなり起き上がるな。体に響くぜ?」


 確かに、あばらの辺りが痛い。


「目立った外傷はねぇが、肉体・精神に負担かけすぎだぜ。どんだけ無茶したんだアホ」


 さて、『アホって言う方がアホ』なんて言ってたのはどこのどいつだったかな。


「で、麻央さんとよーこさんは?」


「二人とも保健室だぜ。お前はまだ大丈夫だったから、この部屋に寝かされたがな」


「状態は?」


「まーさんの方は、フレディーのやつがほとんど傷を治したらしいが、精神的ダメージがでかくて当分まだ目は覚まさないらしいぜ。で、よーこさんの方は……」


 ?


 おいおい、何を顔を近づけてるトモダチ。気持ち悪い。


「……お前、何したんだ?」


「は?」


「よーこさんだよ。俺は一応、一緒に戦ってたけど、とても助かるような傷には見えなかったぜ。それなのに、保健室で診た限りは命に別状は無いなんておかしいだろ」


 ……ああ、そういうことね。


「さぁな。ちょっと大きい物を『偽り』にして運命改変しすぎたら、記憶も吹っ飛んじまったよ」


「……おいお前、まさか『死』そのものの事象を――」


「それより、篭はどうした? いないのか」


「…………。ああ、まだ戻ってないぜ。破壊された校舎とかの処理とかで駆り出されたぜ。あいつの青魔術は結構使えるからな。今頃、先生達にこき使われてるぜ」


 だろうな。


 それにしても、あれだ。


 今日は色々あった。本当に。



「……終わったんだな、全部」











 真夜中の保健室。


 黒井 麻央が横になっているベッドに近付く人影があった。


 そして、その人物はさやから剣を取り出し、寝ている麻央の首に近付ける。


 そして――



「何やってるんだ、噤」



 不知火 噤は手をピタッと止め、声の主の方へ振り向く。


 そこには南条 陽介が立っていた。


「――――」


 不知火は何も言わず剣を鞘に収め、その場を立ち去ろうとする。


「待ってくれ」


 南条は不知火を言い留める。


「暗殺の仕事、まだやってるんだろう?一体、これは誰からの依頼だ」


 不知火はほんの少しだけ南条の方へ首を傾け、



「―――『氷王』ユミル」



 滅多に出さない声でそう言い、闇に姿を消した。






 3月上旬。まだ寒さの残る春の日。


 『魔王』率いる『悪魔』の軍勢は一つの学校に攻め入り、敗北した。



 この一件で、世界は激動する。






【激動編:完】

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