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僕の世界  作者: Sal
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【第七十七話】激動編:救援

 海藤 魚正とクロセルは、校舎内の廊下で戦っていた。


「ハッ、どうしたぁ? ンなもんかよ、『スモーク』?」


「っ……! お前、その剣……」


 二刀流。


 クロセルの両手にはそれぞれ剣が握られていた。


 左手に持っているのは、クロセル自身が魔法で形成した白い氷の剣。


 だが、右手に持っているのは―――



「ハッ、そうだ。魔剣『エーリヴァーガル』だ」



 紺碧。まるで光の届かない海の底の色をした、氷の剣。


 左手に持つ剣と明らかに違うのは、色以前に魔力。


 その刀身を包む魔力の禍々しさが、魚正に重圧プレッシャーとなって襲い掛かる。


「てめぇのその聖槍は幻術も効かねぇからな。『聖装』相手に丸腰じゃ、流石にキツいもんがある。かと言って、並の魔導具でも話にならねぇ。だからこそ、『聖装』と対を成す『魔装』がある。天に相反する地が、『悪』に与えた究極の力だ!」


 クロセルは左手に持つ氷の剣を、魚正に向かって投げ飛ばす。


 魚正は個人の能力により、通常の打撃・斬撃は効かない。だが、この剣は敵を凍て付かせる効果を持つため、避けるか防ぐしかない。


「くそっ……!」


 魚正は避ける。それしか選択肢は無い。


 なぜなら――


「ハッ、喰らいやがれ!!」


 クロセルが間合いを詰め、『エーリヴァーガル』を振り下ろす。


 先程の剣を『ポセイドン』で防いでいたら、この攻撃を防ぐ術が無い。


「おおおおおおおぉぉぉぉぉ!」


 だからこそ魚正は今、『ポセイドン』でその攻撃に対応する。


 ガァン!!


 三叉の槍と氷の剣がぶつかり、その反動で魚正とクロセルは互いに後ろに吹っ飛ぶ。


 しかし、二人は片手で受身を取ってすぐさま立ち上がり、再び武器を構える。


 すると魚正は、ふと周りを見た。


「おいおい……この校舎、壊れるぞ」


 さっきの衝撃で、そこら中の窓ガラスは窓枠ごと吹っ飛び、床は剥げ、壁は穴だらけになっている。


「ハッ、ンなこと関係ねぇ。どうせ、全部ブッ壊す予定だからなぁ」


 その言葉に魚正は一旦、『ポセイドン』を下げる。


「何で、そこまでする必要がある? 俺達全員を殺すことが目的じゃねぇのか?」


「……ハッ」


 クロセルは、そんなことも分からないのかと言わんばかりに嘲笑する。


「コイツはなぁ、閣下がある女一人を最も絶望的な死に叩き落とすための道楽なんだよ。さっさとブッ殺せばいいものを、わざわざじりじりと首を絞めてなぁ」


 『女』。魚正は、筧から例の一連の話を詳しく聞かされていないため、そう言われても誰の事であるか分からない。


「閣下にとって、オレ達の殺し合いはただの演出でしかねぇ。ただ、その光景をあの女に見せて、精神的にじわじわと追い詰めてんだよ」


 すると、クロセルが突然に笑い出す。


「ヒャハハハッ……! あの女は、今もまだオレの術でこの戦場と化した自分の居場所を見続けてんだよ!」


「術?」


「アァ……通常の赤魔術では会得できねぇ、『幻惑の眼』の所有者のみの能力――」


 クロセルの眼帯をしていない方の眼が、真紅に染まる。



「“夢幻回廊むげんかいろう”。意識を無くした後も、夢の中で延々と幻を見させ続ける回避不能の悪辣あくらつな幻術だ」



 クロセルは魚正に言い聞かせるように言う。


「例え、閣下かあのクソジジイがしくじって、あの女の拘束が解けたとしても、このオレの術が解けねぇ限りあの女が目を覚ますことはねぇ。仮に目を覚ましたとしても、それは何もかもが終わった後だ。あの女の目ん玉に映るのは、闇に還った希望と全てを飲み込む絶望しかねぇんだよ!」


 そこまでクロセルが言うと、魚正が口を開く。


「……俺はお前が何を言ってるか、よく解らねぇよ。だがな――」


 魚正は『ポセイドン』をクロセルに向ける。


「とにかく、お前は倒さなくちゃならない敵だってことは解った」


 重圧プレッシャー


 禍々しいわけではない、ただ正義に燃える心が放つ『善』の圧力。


「ハッ、言っとけよ。てめぇは既に、オレの術中に陥ってんだよ」


「!」


 魚正は気付いた。


 先程から、あの『エーリヴァーガル』から紫色のもやが出ていて、いつの間にか辺りを覆っている。


「これは……!」


 木造の校舎の柱や床が腐食していく。


 毒だ。


 魚正は急いで『ポセイドン』を構えて、魔力を溜める。


 そして――


「はあっ!」


 魚正の周りの靄が晴れる。


 『ポセイドン』の二つ目の能力、浄化だ。


「ハッ、ンな能力もあったのか。だが、それじゃコイツは防げねぇぞ」


「!」


 しもだ。天井や壁、床に紫色の霜が、びっしりと付いている。


「食らいな」


 次の瞬間、霜が付いていた場所から、鋭く尖った紫色の氷柱が一斉に飛び出して来た。四方八方からの攻撃。避けようも防ぎようも無い。


「ぐっ……!」


 魚正は攻撃に当たりながら、その場から飛び退く。だが、


「っ……うっ、ぐあぁぁ……!」


 全身に受けた傷口が激しく痛む。


 毒の効果か、四肢に力が入らなくなる。


 魚正はその場に膝を突き、『ポセイドン』を杖代わりにして何とか前だけは向く。


「ハッ、そのままにしても体に毒が回って死ぬが、てめぇは、直接ブッ殺してやりてぇんだよなぁ」


 『エーリヴァーガル』を構える。


「死ね、『スモーク』」


 そして、クロセルは魚正に飛び掛かった。


 その時―――



 ドゴオオオオオォォォォォォォ!



 魚正のすぐ横の壁が大破し、何かが魚正とクロセルの間に割って入ってくる。


 そして、何かとクロセルが衝突した。


「ちっ……!」


 クロセルは舌打ちし、そこから飛び退く。


「間一髪だったッスね、魚正」


 そこにいたのは、『カーネリアン』というコードネームの『勇者』だった。


「……英雄?」


 魚正はきょとんとなる。


「だっ、大丈夫!? 魚正くん!?」


 聞き慣れた声が近付いてくる。


 そして、その姿が視界に入る。


「……宇佐見さん? ……何で、ここに……」


「オイラは元々、危ないところだった宇佐見さんを安全なとこまで運んだだけッスよ。でも、その時に宇佐見さんがこの校舎から変な音がするって言ったからここに来たッス」


 英雄は、『アレス』をクロセルに向ける。


「正直、こんな状況だとは思わなかったッスけどね」


「ハッ、助太刀すけだちかぁ? 結局、一人じゃ何も出来ねぇのかよ、『勇者』ってのは」


「仲間の侮辱は許さないッスよ、『悪魔』」


「許さねぇとどうなんだ?」


「半殺しじゃ済まないッスよ」


「ハッ、やってみな!」


 そして、『アレス』と『エーリヴァーガル』はぶつかり合った。



「大丈夫なの、魚正くん……?」


 宇佐見は白魔術で魚正の傷の治癒をする。


「ああ……、ありがとう宇佐見さん。これだけ手が動かせれば、『ポセイドン』で残りの毒は浄化できる」


 魚正は『ポセイドン』に魔力を込め、自分の体の毒の浄化をすると、すぐ立ち上がって英雄に加勢しようとする。


 しかし、魚正は立ち上がった瞬間、宇佐見に腕を掴まれて止められた。


「ダメだよ、まだちゃんと傷が治ってないし……。これじゃ、またいつ倒れるか……」


 泣きそうな目が魚正を見上げる。


「……ありがとう。でも、俺は戦うよ。あの『悪魔』は、かなり強い。英雄だけじゃ、勝てないかもしれない」


「……ごめんね。わたし、何も出来なくて」


 宇佐見はうつむく。


「いや……充分だ。そっちはその腕、ちゃんと治してくれ」


 魚正は、布が巻かれた宇佐見の腕を見てそう言った。


 そして、魚正は再び戦いに赴いた。











 『魔王』バアル=ゼブル。


 『悪魔の城』での戦いでは麻央さんに負けていたけど、実際に戦闘してみればその実力の高さが解る。確かに、『魔王』に相応しい『悪魔』だ。


「最初の威勢はどうした、『決定者』?」


 僕の放つ風の刃は、全て雷の剣で切り裂かれる。


 魔法一つで勝負してたら、勝てっこない。


 しかし、『真偽の決定』はあと一回しか使えないため、下手に発動してかすり傷一つ付けられでもしたら、僕の負けは決まる。


 やっぱり、あの腐敗の能力がかなり厄介だ。


「……ふむ、やはりもうその『真偽の決定』という能力は使えないか? ならば、『決定者』と呼ぶ必要も無いか」


 『魔王』は魔法詠唱をし始め、魔力が手に集まっていく。



「終わりだ、『人間』」



 雷魔法第四番の三『テラ・カノン』だ。巨大な雷の砲弾が放たれた。


 これは、まずい。


 『真偽の決定』を使うか? いや、でもここで使ったら後が無い。じゃあ、もう真っ向から受け止めるしかない。


 風魔法第四番の三『テラ・ブラスト』。


 風と雷の魔力が衝突し、その衝撃で僕の体は吹っ飛んだ。


「っ……!」


 かなりの距離を吹っ飛ばされたが、幸い傷は負ってない。


 だが、もうさっき使った魔力で『真偽の決定』を使う分の魔力も無くなってしまいそうだ。本当に、この残り一回を何に使うか考えなければならない。どうすれば、あの『魔王』を倒せるか―――


 そこまで考えていた時、僕はいつの間にか背後に、あの人がいることに気付いた。


 こちらに近付いてきた『魔王』がその背後の人を見て、驚いたような口調で言う。


「……まだ生きていたか、女狐」



 巨大な九尾の狐の姿をしたよーこさんが、そこにいたのだ。

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