【第七十一話】激動編:ブチ切れの人形遣い
「クハハハ、どうしたセニョリータ? 君の力はそんなものか?」
「その『セニョリータ』って言うの止めてくれない? なんかムカつくんだけど」
「クハハハ、それは失敬。ならば、詫びだ。早々に終わらせよう」
詠唱。
召喚詠唱に似ているが、微妙に違う。
(これは…………!)
背後に殺気。
それは、真っ黒なコウモリ。
すぐさま、サクリで防ぐ。しかし、
「!!」
気付けば、右から左から上から湧いて出てくる敵、敵、敵。
「クハハハ、どうだ私の使い魔は!! その数、80!! そんな人形では太刀打ち出来んだろう!!」
そして、ヒナはベリアールの使い魔の軍団に押し潰される。
「クハハハ……所詮はこんなもの――」
「調子に乗るな、下衆」
使い魔達が吹っ飛び、ヒナの姿が現れる。
「なっ……」
呆気に取られた。一瞬、何が起こったのかを認識できなくなり、それが隙となる。
ヒナは俯きながら、ボソボソと呟き始める。
「まともな契約もしてないような小さな『存在』なら、そんなに魔力はいらないわよね……うふふ、うふふふふふ……」
何やら、様子がおかしい。
「もらうわよ、そいつら」
念糸が伸び、全ての使い魔にくっ付く。
「一つの指から8本ずつ伸ばせば、ちょうど80……うふふ、うふふふふふ……」
「一体、何を……」
「サクリの仇、とらせてもらうわ」
ヒナの傍には、腕の部分が折れたサクリが。恐らく、さっき押し潰された時に破損したのだろう。
鋭い目付きがベリアールに向き、ヒナは指を動かす。
次の瞬間――
「!!」
80体の使い魔が、一斉にベリアールに突撃し、自らの主を押し潰した。
「『支配権』って知ってる? 村は国の、民は王の下で従う運命にある。そして、使い魔は主の下に。念糸の真の能力は、その『支配権』を奪うこと。支配主や支配対象の強さでコストは変わるけど、これくらいなら訳ないわ」
「ぬぅ……」
ベリアールは、のしかかっていた使い魔達を吹き飛ばす。
「これは一本やられた……。裏切りを強制させる能力があるとは……。とりあえず、こやつらは一旦返してもらおう」
「そんなこと言われなくても、戦闘不能になったのなんていらないから今すぐに返すわよ、ほら」
念糸が一斉にプツンと切れる。
「……さて、仇討ちの続きよ。うふふ、うふふふふふ……」
「クハハハ、今の戦法は見事だった。しかし、今度は支配されている対象がいない。戦法が使えない以上どうするつもりだ?」
ヒナは、懐に手を入れる。
「わたしの最高傑作を見せてあげるわ」
魔導具『ブルー・シート』。
「出でよ、クロ」
出てきたのは、何の変哲も無い、赤い着物を着た黒髪の人形。ただ、その後ろに携えている巨大な包丁が無ければの話だ。
「その人形が最高傑作か。ならば、そやつを―――ぬ?」
ベリアールは自分の体の異変に気付いた。
手足が動かないのだ。
「多少、魔力を使ったけど、脳から手足の『支配権』を奪わせてもらったわ。うふふ、うふふふふ……」
「何っ、卑怯な!!」
「戦いに卑怯もクソもある? それに、『悪魔』がそれを言うのってどうなのよ」
クロがベリアールの方へ、徐々に近付く。
「そういえばあんた、わたしの名前が『良い名』だって言ったわね」
「ぬ?」
「それ言われても微妙な気分にしかならないのよね。元々、わたしは名前なんて無くて、『雛』は自分自身で付けたけど、『綿貫』は昔の異名からとったのよ。うふふ、うふふふふふ……」
ヒナは少し、思い出し笑いをする。
「ヒドい異名だと思わない? 『腸抜き』なんて」
クロが包丁を振り上げる。
「……クハハハ、セニョリータ。君の愛称は、そちらの方がよく合うようだ」
「だから、『セニョリータ』って言うの止めろっつの」
そして、振り下ろした。