【第七十話】激動編:沈黙の扉を蹴破る音
「6年前のこと……あんたは覚えているか……?」
ベリスの問いに、筧は頷く。
「………『世界の節目』の時、だろう?」
「そうだ……。あの時は様々な事が起こった……。『魔王』に『ガーネット』に『熾天使』……そして、多くの神々が死に、世は混乱に陥った……。そして、神々は世代交代の準備に手間取ったことで、世の戒律が一時期緩和した……」
「………そう。………そして、お前達『悪魔』は暴れ回った」
「『悪魔』を統率する者など、元々あって無いようなものだったからな……。存分に殺戮に耽った……」
ベリスはゆっくりと腕を掲げる。
「そして……これもまた一つの節目か……」
「………赤魔術か。………『アスンシオン』の魔法障壁は幻覚をも防ぐ。………無駄なことだ」
「違うな……。これは、錬金術だ……」
鋭い金属片が、筧に飛んでくる。
「…………!」
魔法障壁を貫通した金属片は、筧の体のギリギリを掠める。
「こいつは特殊でな……。『金属を作る』のではなく、あくまで『金属に変える』術……。魔力によって構成されていないため、魔法障壁で防ぐことは出来ない……」
ベリスは、周りの石ころで無数の金属片を作り出す。
「6年前の借り……返してやろう……」
金属片が一斉に飛ぶ。
剣で弾くにも、避けるにも隙が無い量。
「…………」
ならば、手は一つ。
キィン!
金属同士がぶつかり合う音が響く。
「!!」
金属片が筧を捉えることは無かった。
「…………使うのは、久しぶりだな」
聖盾『ユピテル』。神より捧げれし聖なる盾。
「二つ目の『聖具』……!?」
「………驚くのも無理はない。………『聖具』は、一つ操ることが出来ただけでも充分。………寧ろ、二つ以上は魔力の浪費が厳しく、無理と言われる。………だが、ボクにはそれが出来た」
筧―――もとい、悠木 菖蒲は眼鏡を外す。
「………単純な、格の差だ。一度、思い知らせてやる」
勝負は一瞬。
「ッ……!」
ベリスは斬られた。
全く反応できずに、気が付けば斬られていた。
そして、筧は静かに眼鏡を掛け直す。
「………これが『ガーネット』だ」
「…………。これはまた成長したもんだ……。6年前の方が、まだ勝ちの目があったかもしれんな……」
静寂に包まれた戦場で、筧はただその場を去った。
学校敷地内のとある場所。
ペイモン、エリゴール、マルコシアスの3人の『悪魔』は、隠れて『悪魔』全体の指揮を執っていた。
そう、隠れていた、はずだった。
「よぅ、やっぱここに居たか」
扉をぶっ飛ばして登場したのは、見た目20代の女性。
「よく、ここがお解りで」
マルコシアスが言う。
「『悪魔』の軍勢は、こことは正反対の方角から派手にやって来た。それが逆に引っ掛かったんだよ。もしかしたら、そいつは何かを誤魔化すための罠。実際に指揮を執ってる奴は、どこかに隠れてんじゃねぇのか、ってな。それはともかくグラウンドの体育用具倉庫に勝手に入るなボケ」
「ラバルとアバリはどうした?」
ペイモンが尋ねる。
「あん? 表の見張りか? 5秒で充分だったぞ」
「とにかく、貴様が何者か問おうか……」
エリゴールが訊く。
「ハ、あたしはこの学校の校長だ。それ以外の、何者でもない」
校長はそう高らかに言い放った。