【第六十七話】激動編:彼らと狐と悪魔と友と
「あれ~? 友枝クンじゃん、よく見たら」
「え? え~と、何だっけ名前………あ、そうだ。アスタロトだったっけか、お前」
トモダチは、少し考えてから言う。
「知ってるのか、トモダチ?」
「ああ、『悪魔の城』でちょっとな」
「あの時は、途中で終わっちゃったからね~。でも、これでちゃんと決着が付きそうだね?」
今の戦況はというと、妖狐と篭の召喚獣であるアクーパーラを先頭に置き、篭とトモダチが援護射撃して、何とか凌いでいる状態である。『悪魔』達の方では、アクーパーラの水魔法に弱いマルティムのサラマンドラが引っ込んだが、尚も圧倒的に数では負けているため、下手に陣形を崩せば、一瞬にしてやられるだろう。
だが、このままの状態でも、やられるのは時間の問題であった。
篭とトモダチは、目の前で戦っている巨大な狐に目を向ける。つい数分前とは、比べ物にならない程の出血量。明らかに動きが鈍くなっていて、足の踏ん張りも利かなくなっている感じだ。
考えるまでもなく、妖狐は限界だった。
トモダチが白魔術で癒そうとするも、なかなかその隙が無い。
《スマナイナ……ワタシハモウ、コレイジョウムリノヨウダ……。ナラバセメテ……イッピキクライ、ミチヅレニ……》
妖狐は敵陣へ突っ込み、ヴァナルガンドに飛びかかる。そして、最大級の“狐火”を浴びせた後、爪による渾身の一撃を与える。すでに、かなりのダメージを負っていたヴァナルガンドを戦闘不能にさせるには、充分な攻撃であった。
しかし、隙のできた妖狐に、ヨルムンガンドが強烈な体当たりを喰らわせ、妖狐を吹っ飛ばす。
そして、倒れた妖狐が起き上がることはなかった。
「よーこさん!」
「余所見してていいのかな~、友枝クン?」
「トモダチ!」
篭が叫ぶが、アスタロトのドラゴンがトモダチに向かって、その鋭い鉤爪を振り下ろす。
だが、驚いたことに、その攻撃は見事に空振った。
「!?」
トモダチがいつの間にか攻撃範囲外にいた。というか、本人も驚いている。
そして、その隣には、見慣れたクラスメイトが。
「危ねェところだったな、トモダチ?」
彼の名前は、足立 進。
「あ、足立……? 何で、ここに……。っていうかお前、その格好……」
それは、真っ白なローブ。そう、まるで『悪魔』の黒い服と対極になっているような――
「ああ。誰にも言ってなかったけど、実はオレ『天使』だから」
なんと軽く、さらっと言うことか。
「最近、『悪魔』退治は『勇者』がほとんどやっちまってて、『天使』の仕事といえば、霊魂管理くらいだったが、今回はちゃんとした出撃要請が出ててなァ。久々に、暴れさせてもらうぜェ?」
「……この緊急時だから、あまり深くは問わねぇけど……大丈夫なのか? 相手はLv4の『悪魔』だぜ?」
トモダチは急な事に動揺しながらも、足立に訊く。
「大丈夫だ。こう見えて、オレは『7人の上級天使』の一人だからなァ。そう簡単には負けねェよ」
足立は構える。
「あァ、そうそう。『何で、ここに』の質問の答えだが、南条に探してもらったからだ。あいつは全員の居場所が分かるからな」
「そうか……って、じゃあ南条は何で来てないんだよ。他に用があるのか?」
「あ? あいつは、ちゃんとこっちに向かってるぜ?」
「じゃ、何でお前しかここに来てないんだ」
「は? んなこと当たり前じゃねェか」
突如、足立の姿が消える。
「オレが、あいつよりも速ェからだ」
「!」
足立は、マルティムに蹴りを繰り出し、そのまま退いた後、アスタロトのドラゴンの周りを走り回って翻弄する。
「トモダチ! 足立がああやって、あの二人と一匹を引き付けてくれてるみたいだし、こっちもいくぞ!」
「あ、ああ!」
妖狐のことも気がかりだが、数で負けている今の状況では戦闘の方に集中しなければ、先程のように隙を突かれる。
「アク一匹だけじゃ、さっきみたいな戦法はできねぇ! オレは、鳥と蛇の奴を何とかする! お前は、牛の奴を頼む!」
「わかった! どうにかしてみるぜ!」
《奴等、バラバラに戦うつもりか?》
「……ふむ、どうやらそのようだな。構わん、乗ってやれ。こちらの優勢は変わらん」
《御意》
「やってやるのですぅ~」
二人の『悪魔』は、それぞれの相手との戦いに付く。そして、
「ふむ」
バアル=ゼブルは、観戦を継続した。