【第六十六話】激動編:再戦
捲土重来。
再び、相見える。
「よぉ。久しいなぁ、『スモーク』?」
「……クロセル、か」
「ハッ、ちゃんと覚えてるみてぇだな?」
海藤 魚正は、クロセルと対峙していた。
「前置きはいらねぇ。とっとと押っ始めるぞ」
クロセルは、氷の剣を形成する。
「今度は、邪魔する奴はいねぇ。一対一、真っ向からてめぇをぶっ殺す!」
「妙な奴に因縁を付けられたもんだな、俺も……」
魚正は、困ったものだと言わんばかりに、頭をもたげる。
「まぁ、別にいいけどな」
リストバンドを外す。
敵の力量が分かってる以上、小手調べは必要無い。最初から全力で立ち向かうだけ。
「来い、Lv4『悪魔』クロセル。『勇者』として、お前を討つ」
「ハッ、言うようになったじゃねぇか、ガキが!」
そして、『勇者』と『悪魔』は激突した。
宇佐見は、ただただ驚いていた。
6年前。忘れもしない。それは、自分が魔眼を手に入れ、記憶を無くしたあの時。
目の前にいる『悪魔』は、知っているのだ。その直前の自分を。
自分が思い出せない、自分の過去の事を。
「クロセルから聞いた時は驚いた……。『幻惑の眼』の所有者になったって……? それで、オレに対抗でもする気だったのか……?」
「…………」
これまでの相手の発言から推測するに、6年前に何かあって自分を殺し損ね、自分を狙っている、ということは解る。
だが、疑問はある。
自分を殺し損ねた――そもそも、何故殺そうとしたのか。『対抗』――何故、する必要があるか。自分を狙っているから? いや、単に抵抗する意味の『対抗』ではない気がする。だったら――
もしや、この『悪魔』は自分に恨みを持たれる要因を持っている……?
ベリスは、不意に拳による一撃を繰り出した。
考え事をしていた宇佐見は、一瞬反応が遅れて避けられず、腕で受け止める。だが――
「っ!」
あまりに重く、硬い一撃。メキリ、と鈍い音がし、宇佐見はそのまま吹っ飛んだ。
「うっ……くっ……!」
腕を押さえながら悶える。確実に、折れている。
「錬金術の応用みたいなものでな……。腕を金属化した……。地魔法の硬化よりも攻撃力は格段に高い……。避けるべきだったな……」
白魔術で腕を癒しながら、宇佐見は詠唱する。
氷魔法第六番の二『メガ・スピア』。氷の槍が、ベリスに向かって放たれる。
「!?」
だが、槍は当たらずに、そのままベリスの体をすり抜けた。
「赤魔術の幻覚……。忘れたのか……? だからこそ、その『魔眼』の所有者になったんじゃないのか……?」
今度は、金属化した脚で、先程当てた腕と同じところに蹴りを入れ、吹っ飛ばす。
「っ……!」
激痛が腕に走る。声にならない程の痛み。
「何故かな……。あんたと戦っているせいか、6年前の古傷が疼く……」
ベリスは、顔の傷を擦りながら、ゆっくりと宇佐見に近付く。
「まぁ……、多分それも、これで終わる……」
そして、腕を振り上げる。
その時。
キィン、という金属音と共に、宇佐見とベリスの間に立つ人物。
その人物は、目の前の『悪魔』に、凛然と剣を向けていた。
「…………」
『無口その1』である。
「か、筧くん……?」
「………話は後。………『カーネリアン』」
「はいッス」
「………彼女を安全な所へ」
「了解ッス。宇佐見さん、立てるッスか?」
「清華くん……うん、まあ一応……」
「じゃあ、ちょっと掴まってるッス。水島さんも手を放せない状況みたいッスから」
「えっ、ちょっ……筧くんは……」
「大丈夫ッスよ。あれでも、強いッスから」
英雄は、宇佐見を抱えて跳んだ。
「逃がした、か……。まぁ……、後で追いかけるか……」
「………そうもいかない。………お前は、ボクが止める」
「そうか……、じゃあ……、あんたを倒すしかないか……。あんた、その聖剣を見るに、『勇者』か……。コードネームは……?」
「………『ガーネット』」
「! …………なるほど……。どうりで傷が疼く訳だ……」
ベリスは顔の傷に触れる。
「ここに、傷を付けた本人がいるんだからな……」