【第六十四話】激動編:獣達の激突
篭とトモダチは、騒動の中、誰もいない所を二人で走っていた。
「お、おい、どこ向かってんだよ、トモダチ! 学校の敷地内から出てるぞ!」
「分からない奴だな。こういうのには大抵『黒幕』っていうのがいるんだぜ」
「は?」
「あの『悪魔』達の攻め方からして、来たのはこっちの方角からだ。そうなりゃ、そこに『黒幕』――『魔王』がいる可能性が高いってことだぜ」
トモダチは言う。
「それで、そいつを黙らせる」
「お前―――」
すると、二人の目に驚くべき光景が飛び込んできた。
「!!」
巨大な狐が暴れている。その一匹の狐と交戦している『悪魔』や魔獣。狐の体はあちこちから血が噴き出していた。
そして、狐は敵の攻撃を受け、二人の方へ吹っ飛んできた。
篭とトモダチは反射的に、飛んできた狐を避けた。
「……おい、トモダチ。この狐って……」
篭は、倒れている狐を見て、思った。
この狐と全く同じ髪の色をした女生徒がいる、と。
「……よーこさん、か?」
《…………。ソウサ》
答えたのは、トモダチではなかった。
《コレガワタシノホントウノスガタダ。コモルクン、トモダチクン》
巨大な狐は起き上がり、再び戦闘態勢へ移る。
最早、感じられる妖力でさえ、妖狐のそれとは違っている。
《マオガトラエラレテイル。カノジョヲタスケナケレバ……》
篭とトモダチは、目の前の敵を見る。
『悪魔』が5人。魔獣がトカゲ、鳥、牛、ドラゴン、狼、蛇の6匹。
「おやおや」
《あれは……》
「新手なのですぅ~」
「どうする~、ゼブル?」
「……ふむ、構わん。そのまま続けろ」
『悪魔』達は、それぞれが従える魔獣を突っ込ませてきた。
「篭!」
「分かってる!」
篭は構える。そして、詠唱。それは、青魔術の召喚詠唱。
手の甲の契約印が光を放つ。
「召喚 アクーパーラ」
現れたのは、これまた巨大な亀。そして、突っ込んできた魔獣達を受け止める。
「修行の成果、見せてやるぞ! アク!」
《黙れ、小僧。突然、このような状況に呼び出しおって、儂を何だと思っておる》
「お前も少しは空気を読め!」
《だからこそ、こやつ等を止めておるのであろう。……むうぅん!》
アクーパーラはその巨大な身体を揺らし、魔獣達を突き飛ばした。
『悪魔』達はただ、唖然としている。
「何でしょう、あの亀は……」
マルティムは、動揺しながらも丁寧な口調で言う。
《亀の王だ》
五芒星を通して、デカラビアは答えた。
「亀の王、ですか?」
「それなら聞いたことあるのですぅ~。全ての霊亀の頂点に君臨すると言われる最強のカメさんなのですぅ~」
黒いドレスに、薄い水色の髪をした『悪魔』が言う。
「そんな強力な魔獣を遣えるの~、彼? 『人間』も大したもんだね~……面倒くさい」
アスタロトは気の抜けた声を発した。
《魔獣、と呼ぶよりかは、神獣、と呼んだ方が適切かもしれん》
情報管理長は、付け加える。
《だが、恐れることは無い。数では圧倒的にこちらが勝っている。戦況の優勢に変わりはない》
こうして、獣達の激突は始まった。
(とりあえず、俺は足手まといにならないか、これ?)
トモダチは一人、そう思った。