【第六十三話】激動編:乱戦
休日、夕暮れ時。学校の警備が、最も厳しくなる時間帯に『悪魔』の軍勢は攻めてきた。これは、以前の学校の制圧計画のような不意打ちではなく、完全な宣戦布告。学校の『制圧』ではなく、『壊滅』の意思表示だった。
攻め入ってきた『悪魔』の数が多すぎて、教師達だけでは対処しきれない状況になってしまった学校側は、生徒達に戦闘参加することを促した。
「異例じゃないですかー、校長先生ー。本来、教師とは生徒を護る『存在』。それなのに、進んで戦闘に参加させるとはー」
「生徒を護る『存在』だからこそだ。この状況じゃ、あいつら庇って戦うより、あいつら自身で自分を護らせた方が被害を被らないで済む。これが最善の手だ」
普段、ふざけた態度をしている校長も、今は真面目な顔をしている。
「それにだな、一寸一分。お前もわかってるだろう? 前の学校の一件でも、あいつらは勝手に単独行動し始める馬鹿ばっかりだ。あたし達が言わんでも、勝手に奴等に勝負を仕掛けるだろうさ」
「まー、そこがあいつらの面白いところですからねー」
一寸一分はそれだけ言うと、戦闘に戻っていった。
「……これで、誰も死ななけりゃ良いもんだ」
「だ~~~~~、いてぇいてぇ死ぬ死ぬマジこれ、いてぇ死ぬって」
「間抜けな声を出すな、富士田。死ねぬ者が何を言うか」
「てめぇ初見。今の、見てなかったわけじゃねぇだろ。何だってんだ、寄って集って。おれは樹液か?」
富士田が立っている傍には、気絶した『悪魔』の山が築かれていた。
「今のお前を見る限りは、『樹液』というより『ジャム』だがな。それも真っ赤なイチゴの」
「てめぇは変な比喩するな、ハク!」
無論、この場合の『イチゴのジャム』というのは『血』のメタファーである。
「……ふん、そんなことより、また団体がお越しのようだぞ」
「チッ、せっかくの休日なのに、束の間も休む暇がありゃしねぇ。チクショー」
「そんなこと言うておるのなら休んでおれ。拙者らは一向に構わんぞ?」
「誰が休むか」
「せりゃぁぁぁあああああああああ!!」
水島 清憐は、『悪魔』の大群を文字通り一蹴した。
「あんたらなんか素手で充分だ。あたいは越えてきたものが違うんだよ」
その言葉からはどこか貫禄が感じられる。
(ああいうの見ると、やっぱり『人魚』というより『魚人』だよなー……)
宇佐見はつくづくと思っていた。
「やるな、あんたの相棒……」
黒い髪、黒い顎鬚。顔は古傷だらけで、頭に金の飾りを付けている。黒衣の下からは、真紅の鎧も見える。
「そりゃ、れんちゃんだもん。………で、貴方は?」
「Lv4……ベリスだ……」
「……Lv4」
宇佐見は『悪魔の城』でのことを思い出す。
「情報は回ってる……。あんたがクロセルと戦った者だろう……?」
「うーん……、名前どうだったかなぁ?」
「氷魔法を多用する者だ……」
「ああー、うん。戦った戦った」
「そうか……。ならば、オレはちゃんと目的の人物に会えたわけだ……」
「?」
ベリスはゆっくりと、それでいて鋭い眼光を宇佐見に向ける。
「宇佐見 菊代……。6年前の殺し損ね……」