【第六十一話】激動編:絶望的な死に方
『悪魔の城』。
《戻ったか、クロセル》
空中に浮かぶ五芒星が、クロセルに話しかける。
「……てめぇは何で、会議以外の時は自分の体で動かねぇんだ。デカラビア」
《単純な話だ。俺は、情報管理長。他にやるべきことが山のようにある》
「ハッ、そうかよ」
《目標はどうした。逃がしたか?》
「ンな訳ねぇだろ。さっき、魔力研究所に運んだ。何かするみたいでな」
《そうか》
「てめぇが講じた策は、見事に効きやがった。正直、手こずるかと思ったが拍子抜けだったな」
《やはり思ったとおり、かなりのトラウマだったか》
「ハッ、幻術かけた瞬間に、泣き叫んで気絶。ありゃ、異常だな。…………で、」
クロセルは、五芒星の隣に立っている『悪魔』に目を向ける。
「こいつは誰だ」
老いて、髪は白く染まっているが、かなり大柄で強靭な肉体をしている。黒のローブの下からは、銀色に光る鎧が覗いて見える。
《新たにLv4への昇格が決まった者だ。名は――》
「ザレオスじゃ」
ザレオスは、クロセルの前に立つ。
「以後、見知り置きを。クロセル」
「ハッ、いきなり呼び捨てとは、図体に見合った態度だな?」
「ガッハッハッ、同じ位に就いた以上、遠慮はせんわい。ワシの好きにさせてもらうだけじゃ」
「元気なジジイなこった……」
クロセルは、アマイモンと比較しながら呟いた。
「ん………」
黒井 麻央は目を覚ます。
薄暗い部屋。医務室のような薬品混じりの異臭が漂う。
そんなことより、麻央は自分の体の異変に気付く。
両腕を広げた状態で十字架に張り付けられ、怪しい装置のようなものが体の至る所に取り付けられている。力を入れてみても、ビクともしない。そして――
(……魔力が溜められない)
「ふむ、お目覚めか。元閣下」
麻央は声の主の方へ顔を向ける。
黒い髪。金色の額飾り。『魔王』専用の漆黒のマント。
「蝿の人……」
「『魔王』バアル=ゼブルだ。自己紹介はした筈だがな」
見回すと、近くにアマイモンの姿も。
「久しぶりですな、元閣下。如何ですかな、吾輩の造った拘束具は?」
「ふむ、貴様が以前言っていた、『無限にゼロを掛ける』拘束具だ」
つまり、麻央の『魔力無尽蔵』を完全封印したということだ。
「……完璧だね。……全然、力が入らないよ」
「ほっほっほ。本人の体があれば、造作も無きことでありますよ」
アマイモン。Lv4の『悪魔』。此処、『悪魔の城』の魔力研究所の所長。
以前の『王の間』の仕掛けも彼が造ったものだった。
「で、あたしを殺すの?」
麻央は、単刀直入に訊く。
「……ふむ、まぁ、聞け。俺は少し気が変わった」
「?」
「前回の一件。俺は貴様に敗北した。だが、貴様は俺にトドメを刺さなかった。……いや、貴様だけでなく、貴様の仲間もだ」
バアル=ゼブルは言う。
「戦いが終わり、目を覚ました時、俺は気付いた。この恨みは貴様一人をただ殺しただけでは、収まるものではない。この怨恨は、貴様の仲間を殺し、貴様を絶望の淵に叩き落とした時に晴らされる、と。」
「……まさか」
「そうだ。そのために『大魔王』ロキ大閣下からも援軍を得た。俺達『悪魔』の総力で、貴様の学校を攻め、全てを破壊する」
「! やめ―――」
突如、右腕に激痛。
「っ!」
見れば、アマイモンが青白く光る球を持っている。
「貴様の異議は認めん。貴様に与えられた選択肢は一つのみ。『絶望的に死ぬ』。そう――」
バアル=ゼブルは麻央に近付き、呟く。
「貴様の両親が殺された時のようにな」