【第五十八話】肝試しの話 5
「ハク君……、君ってもしかして……」
「……ふん。気付いたか」
やはりそうらしい。
「まぁ……、前から薄々感じてはいたんだけど……、肌の色とか魔力の質とか……。あと、名前が白布 幽谷だし……」
「はっはっはっ。それにしても安直過ぎる名前だねぇ」
と、よーこさん。
「……よーこさん、知ってたの?」
「ん? まぁ、『知ってた』というより、『解ってた』よ。最初からね」
「俺達も解っていたぞ、桐谷 秀」
フレディー君が言った。
「え?」
「彼から発せられる力は明らかに『魔力』ではなく、『霊力』の物だったからな」
ネルさんも、すでに知っている、という表情で立っていた。……まあ、もともとあまり変化はしていないが。
……ということは、だ。
「ここにいる人で知らなかったの、僕と麻央さんだけ?」
麻央さんは、ハク君の事実を知って驚いている様子だし。
「……そういうことだねぇ」
「他に知ってる人は?」
「初見は解っているかもしれん。富士田は………どうだろうな」
ハク君が答えた。
「じゃあ、君が『ここ』にいる理由は――」
「その辺の事は問うな。俺は全てを忘れた。一体、何のために存在しているのか、何の因果で『ここ』にいるのか。何もかも忘れた、不安定で幽かな『存在』だ」
「…………」
何も言えなかった。
「ちなみにだ。ここ―――お前達の所に来た理由は、この廃校舎に悪霊がいると最初に感じていたからだ。暴れだしたからここに向かった。場所の特定は、よーこに手伝ってもらったが」
ハク君がそう言うと、よーこさんは微笑んだ。
「……あのさ……」
「ん?」
麻央さんが話しかける。
「とりあえず……終わったのなら、帰らない? 時間的に、皆も待ってるかもしれないし……」
あ。
「……そうだね、麻央さん」
何と言うか、色々あって肝試しということを忘れかけていた。
「じゃあ、よーこさん。この明かり点けたまま……」
「…………」
「……よーこさん?」
よーこさんは、麻央さんをじっと見ていた。
「…………?」
「……ついているね」
「……? あたしの顔に何か?」
よーこさんはハク君の方を見る。
「……ああ、確かに憑いているな。一体」
背中がぞくっとした。
フレディー君も少し驚いた表情を見せている。ネルさんは相変わらずだが。
「さっきのごたごたの時だねぇ。……ま、この程度の憑依能力なら狐だって持ち得るさ」
よーこさんは麻央さんの額に指を当てる。
そして、確かに何かが麻央さんから抜けていくような感じがした。
「……ありがと、よーこさん」
「…………。いいってことさ、麻央」
その後、よーこさんの案内で僕らは廃校舎から外に出れた。
トモダチに笑いながら背中をバンバン叩かれたのがうざかった。組み分け工作したのがバレバレだ。
そして、肝試しが終わり、足立君と富士田君が解散宣言をして、クラスの人達は寮部屋へと帰っていった。
「よーこさん」
「ん? なんだい秀くん」
「さっき、麻央さんに取り憑いていた霊って……」
「……気付いてたのかい。かなり強力な怨霊さ」
「やっぱり……」
「人間の霊じゃないよ。『悪魔』の霊だった」
「…………」
「最近、この学校の敷地内で死んだ『悪魔』さ。死体の方は惨然な物でね。『魄』は残らなかった。ただ強い念を持った『魂』が残ったわけさ」
「『悪魔』、か………。そろそろ、また面倒なことになるのかな……」
「……どうだろうねぇ」
「分かっているんじゃないの?」
「…………」
しばらくの沈黙。
「……ワタシの能力は、未来予知ではない。何が起こるか分かっていても、どんな結果になるかは分からないさ。ワタシは」
全てを知っている。
きっと麻央さんが行動を起こすこともこの人は最初から知っていたのだろう。
校庭に青魔術陣があることも知っていた。
ただ、どのような結果が待っているかが分からなかった。
だからこそ、この人は僕らと行動をした。
最悪の結果にならないよう、努力した。
「……分かったよ、よーこさん」
全てを知っているこの人も。楽ではないのだ。