【第五十七話】肝試しの話 4
「訊きたいことあるけど、いいかな? フレディー君」
「何だ」
「アレが、この前君達が言ってた、僕らを狙う『存在』?」
「違うな。アレは、極めて無差別的に人を襲っている。お前達を狙う『存在』は、もっと意志的に狙っている」
「……なるほど」
それは良いのか、悪いのか。……まあ、決して良くはないが。
《殺シテヤル……コロシテヤル……》
僕らは、身構える。
白い顔が、本当に憎そうに歪んでいる。
《アソンデクレナイ……ミンナ…………アソンデクレナイ………》
悍ましい力が少女に集まっていく。
《ミンナシネバイイノニ》
次の瞬間、無数の腕がわらわらと床から、壁から、天井から湧き出してきた。
はっきり言おう。気持ち悪い。
「なっ、何だこれっ!?」
「他の雑霊だ。恐らく、アレは他の霊をも操る霊力を保持している」
さらっと言われても困る。
腕は、一斉に僕らに掴みかかって来た。
もはや、肝を試すとか、そんな話じゃない。
「くそっ!」
何とか、掴みかかる腕を払いのける。
「……きゃっ……!」
麻央さんが首元を掴まれてしまった。
ネルさんが急いで麻央さんに近付く。
だが、僕は気付いた。今、行ったら――
「ネルさん! 後ろ!!」
少女の霊が迫ってくる。
バシィッ!
しかし、少女の霊は、途中で何かに弾かれるように退いた。
大量の腕も、すっ、と消えていく。
「自らの『魄』を他の霊に与えることにより、一時的にその霊に形態をとらせる能力か。なかなかものだ」
「そうだねぇ」
今の結界。そして、この声。
「……ハク君と……、よーこさん?」
「その通りさ、秀くん」
よーこさんが僕に近付く。
「少し暗いねぇ。明かりを点けようか」
天井に向かって人差し指を立てる。
「なあに、“狐火”を空中で固定させるだけさ」
ボウッ、と火の玉が空中に放たれ、天井付近で止まった。
「さて、何から話そうか……」
「よーこ。今は、目の前の奴が先だ」
「……だね、了解した」
ハク君とよーこさんは、少女の霊に向き直る。
「元々、この廃校舎に住み着いていた亡霊が悪霊化したといったところか」
「孤独に潰された自殺者の霊、みたいだがねぇ」
「だが、下手に現世に留まり、これ以上力が肥大化しても困る」
ハク君は札を出す。
「悪いが、黄泉路へ立つことだ」
少女の周りに結界を張る。
どうやら、行動を制限させるタイプの結界のようだ。
《ギィアアアアアアアアアアアアアアアアアア!》
金切り声、というでもいうような叫び。
《苦シイ……クルシイ……クルシイヨ……》
「すまないね。すぐに、楽になるさ」
よーこさんが指で軽く少女に触れる。
すると、少女の姿は、霧のように消えていった。
「……終わったの?」
僕は思わず、声を出す。
「まだだ。まだ『魄』を消滅させたに過ぎない。『魂』が残っている」
ハク君が答えた。
「その……『ぱく』と『こん』って、何?」
「『魄』とは肉体を司る気。そして、『魂』とは精神を司る気。通常の霊は『魂』だけを持つが、魂魄双方を持つ霊は亡霊と呼ばれ、生前の姿でこの世を彷徨うこととなる」
ハク君は先ほどの札をヒラヒラとさせる。
「コイツの『魂』は、結界で閉じ込めた。後は――」
札に火が点く。
「無事、彼岸に辿り着けるよう、祈るだけだ」
札は、塵となって消えた。