【第五十四話】肝試しの話
それは、本当に唐突なことだった。
「肝試し?」
「そ。知ってるだろ、秀? 北の方にある廃校舎。あそこでやるって言ってたぜ」
休み時間。トモダチが、今夜クラスの人で肝試しをやるらしい、などということを言い始めた。
「誰が言ってたんだよ」
「富士田だ。足立と一緒に主催者やってるみたいだぜ」
肝試し……また、面倒なことを……。
「何でこんな時期にやるんだよ」
「寒い時にやるからこそ味が出る、ってもんだろ。夏にやったんじゃ、在り来たりだぜ」
確かに寒い。暦上では、もう立春を過ぎたはずなのだが。
「……ってよく考えたら、そもそもあの校舎は立ち入り禁止じゃないか。先生に怒られるぞ」
「ばれなきゃ大丈夫だぜ。それに、嫌なやつは参加しなくていい、って言ってたぜ」
「じゃ、決まりだ。僕は参加しない。篭でも連れて行け」
「篭は、さっきもう行く約束したから、いいんだぜ。お前、本当に参加しないのかよ」
「うるさいな、二度も言わせるな。面倒臭い」
「まーさんも来るって言ってたぜ?」
「…………」
「フッ、悩んだな? やっぱり気になるんだろ? さあ、参加しようぜ、なぁ? 参加しようぜ参加しようぜ参加しようぜさんかしようぜさんかし――」
バキッ
「おっと、口よりも先に手が出てしまった。人間って不思議」
「……だから顔面やめろ、って言ってるだろ……」
「わかってやってる」
「この野郎」
「はぁ……寒い……」
外は真っ暗。真っ黒と言ってもいいかもしれない。絶好の肝試し日和……なのだろうか。
結局のところ、僕は肝試しに参加することになり、現在廃校舎前にいる。
全部で18人が参加したようで、足立君と富士田君が、徘徊ルートや組み合わせ等の説明をしている。
参加しなかった2名は、筧君と不知火さんだ。まぁ、こういうことに参加するような人達じゃないからな。無口その1その2と呼ばれるくらいだし。
あ~……それにしても、面倒臭い。さっさと終わらせて――
「ペアだね、秀くん」
「…………」
うそん。
その時、トモダチの方を見たら、親指を立てて笑ってやがった。
あの野郎。
あ、これ、続くのか。