【第五十一話】苦手な物
放課後。
神谷 良介は自分の職員机の上を見て、顔をしかめた。
「誰だ、こんな事しやがった馬鹿は」
それは、ばらばらに撒き散らかされた豆。豆。豆。しかも、ご丁寧に炒ってある。
「あははー、今日は節分だぞー。こんなものあって当然だろー」
「明らかに俺の机が集中的に狙われてるよな、コレ? 周りよく見やがれ、他のには乗ってねぇだろ」
一寸八分は、一つの豆をひょいと拾い上げる。
「まー、気にするなー。陰湿なイジメなんてものは、どこの世界にでもあることだー」
「とりあえず、その忌々しい物を全部どかしてくれ。気分が悪くなる」
「……あー、そーいえば豆、苦手だったかー」
「特に炒ったのはな」
一寸八分は隣の席に腰掛け、話し始める。
「生徒達には、何て説明してるんだったっけー?」
「……祖母がアメリカ人のクオーター」
「それは、苦しくないかー? いくら紅毛だからって、そこまで真紅なのは、どー考えても強引だろー」
「案外、ばれねぇモンだ。角はちゃんと見えねぇようにしてるしな」
神谷は懐から煙草を取り出して、火を点けた。
「酒を止めたのも、そのためだったっけかー?」
「ああ、ありゃ違う。流石に、飲んだくれじゃ教師は勤まらねぇだろ。だから、止めたんだ。まぁ、代わりに煙草が止められなくなったがな」
フゥー、と煙を吐き、灰皿に押し付ける。
「……ま、節分ってのは、俺から見りゃ何とも言えねぇなあ。種族である鬼を追っ払うなんて――」
ヒュン。
飛んできたのは、炒り豆。そして、神谷に……。
ジュウウウ。
「熱っ!!!!!!!」
神谷は、バタバタと慌ててその場から離れる。
別に、豆自体に熱は無い。ただ、鬼の弱点なだけだ。
「ブワッハッハッハッ!! 当たった当たった!!」
甲高い笑い声。豆を投げた本人だ。
「あんたか、校長!! 机に豆を散らかしたのもあんたか!!?」
「ブワッハッハッハッ!! 今宵は節分だ!!鬼を払わんで、何を払おうか!!!」
「あんた、一応、女性なんだから、その汚い笑い方を止めろ!!!!」
校長は、豆の入った枡にグシャッと手を入れて掴む。
「そら、喰らえええええええ!!!!」
「ぬおおおお!!!!」
神谷は何とか豆を避ける。
そして、職員室のドアに向かって駆け出した。
「ブワッハッハッハッ!! バァカめ!!!」
「何ぃ!!?」
ドアには、柊の枝にイワシの頭をさしたものが、挟まれていた。
これも、鬼の弱点の一つである。
「お前に逃げ場は無い!!!」
「Sか、あんた!!!?」
「違う!!! サディストだ!!!!」
「同じだ!!!!!」
「喰らええええええええ!!!!!」
「ぬおおおおおおお!!!!!」
何とも愉快な地獄絵図である。
「面白いなー」
周りも微笑ましい目で見ていた。
「ぬわあああああああああああああ!!!!!!」