【第四十九話】白銀の戦争 5
「くそっ、作戦失敗か……退くぞ、英雄!」
「………逃げられると思っているのか」
ビュンッ!
「うおぉっと!!?」
魚正は、寸でのところで雪球を避ける。
(は、速っ! あいつ、こんなに肩力あんのか!?)
魚正は驚きながらも、そのまま雪球を筧に向けて投げる。
そして、空中で粉砕した。
「!?」
何が起こったか分からなかった。
そして、また筧の鋭い投球が襲う。
それは、直線を描いて真っ直ぐと魚正に飛んできた。
(こいつ、まさか……)
雪球をかわす。
そして、外れた雪球はシェルターに激突。
信じがたいことに、そのシェルターには穴が。
(雪球で、雪球をっ……!?)
「…………」
(いや、それはもういい。それより、あの雪球の威力、食らったら………!)
ビュンッ!
「ぬおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!!」
全力で避ける。もの凄い形相だ。
(遊びで負傷してたまるか!)
詠唱。
水魔法第一番『スプラッシュ』。
水しぶきがあがる。ただの目眩まし。
そして、全速力で逃げる。
「…………」
筧は雪球を構える。
ちなみに彼は、形状を具現化しない光魔法を使って、あのとんでもない球を投げている。
まさに、レーザービームといったところだ。
それから、もう一つ。
ビシュンッ!!!!!
「………加減をし損ねた」
先ほどの水魔法の衝撃で、筧の眼鏡が外れてしまったのだ。
バゴオォ!!
「ぐはあぁっ!!」
一瞬、魚正の体は宙を舞い、地面に墜落した。
「海藤、アウトー」
「………立ち向かう『勇気』が足らないな、海藤 魚正」
「魚正までアウトになったッスか……!」
人数は4対5。形勢逆転されていた。さらに言えば、今、彼がいるのはAチーム陣地。1対4。
これはマズイ、と焦る英雄。
実力の差は歴然としている。何か奇策でも無ければ、乗り切れない。というか、奇策に関しては初見が抜けた時点で、尽きている。流れは最悪。
ここは一旦、何としてでも自陣に戻る必要がある。
「……本気、出すッスよ?」
制限具の腕輪を外す。
聖剣『アレス』。神より授かった聖なる長剣。
「こんな時に、『聖装』を使うとはね……」
これには、南条 陽介も驚きを隠せない様子であった。
そして、英雄は剣を振り下ろした。
キィン!
金属音。交わる剣と剣。一方は英雄、もう一方は……
「…………」
筧だった。
「……ついにあんたも『アスンシオン』を出したッスか、筧」
英雄は『アレス』の斬撃による衝撃波で怯ませた後、自陣に戻ろうとしていたのだが、これは余計に嫌な展開になってしまった。
「でも……、オイラだってダテに『勇者』やってるわけじゃないッス!」
一旦、剣を退いて再び斬り付ける。もう一度、今度は下段。一撃ずつ攻撃を当てていく。
聖剣『アレス』の最大の特徴は、その破壊力。今は相手も聖剣だから何とも無いが、普通の武器相手であったら間違いなく壊れている。本来ならば、避けるべき斬撃なのだ。
だが、筧は南条をかばって戦っているので、『避ける』という選択肢はない。ただただ、受けるのみ。
そして――
「せいやっ!!」
『アレス』による衝撃波。
筧に生まれる一瞬の隙。
その一瞬に、英雄は自陣の方に振り返る。
だが。
「!?」
後ろを向けば、そこには不知火が。
「――――」
手には雪球。投げるつもりだ。
避けなければ。だが、距離が近すぎる。
(避けられない……!)
ポス。
「清華、アウトー」
「おいおい……敵陣突入していった3人は全滅かよ……」
「計画は完全失敗ってことね」
「あたい達も動けないしな」
オレ、ヒナさん、水島さんの3人は、雷魔法の縄やら、氷魔法の枷やら、草魔法の木の腕やらで、地面に完全に押さえつけられていた。
「女子をこれだけ完璧に拘束するとか、どんな羞恥プレイだっつの。この鬼畜」
ヒナさんが文句を言う。
「うるさいな、骨は折らない様にやったって」
こいつ、返答になってねぇ。
「それにしても、篭。……こんな甲羅、一体どこで手に入れたんだ。まるで持ち上がる気配がしないけど」
「『勇者』がどうやって『聖具』を手に入れたか、みたいな質問だな、ソレは」
「違うだろ、それ」
「違わねぇさ。大体、おんなじような経緯だ」
誰かから貰った、という点が。
「……まぁ、別にいいけど」
高田は詠唱を始める。
すると、地面から岩の腕のような物が這い出してきて、甲羅をどかした。
本当にこいつは魔法の扱いが上手いな。
高田は、地面に刺さっている旗を引き抜いて掲げる。
「試合終了ー」
先生の声で、長い雪合戦はAチームの勝利で幕を閉じた。
敗因? そうだな。
チーム分けが酷かったとしか、思い浮かばない。