【第四十四話】天蓋プラネタリウム
満天の星空。
鏤められたそれらは、とても神々しく光り輝いていた―――などと、何とも柄にもないこと考えてしまった。
まぁ、それほど、今日の夜空は美しいということだ。何事もオリジナルに勝るものは無いと実感する。そんなことよりも――
「……寒っ」
ここは、学校の屋上。
冷え冷えとした真冬の空気は、肌を劈く様に冷たかった。
消灯時間は、もう過ぎているが、何となく眠れなかったので来てみたのだが………あれだ。人間、何となくで行動しちゃダメだね。僕は今、物凄く後悔している。
早く部屋に戻ろう。寒い。……いや、だがこの寒さで動くのも面倒だ。もう少し、ここにいるか………いや、そんなことしてたらもっと面倒なことに………。
「あれ? 秀くん?」
不意すぎて、心臓が飛び出るかと思った。
振り向けば、そこには声の主が。
「麻央さん?」
「あはは、ここで会うの初めてかな?」
麻央さんは、厚手のコートにマフラー、ニット帽という……何とも暖かそうな格好をしていた。
「秀くん、よくここに来るの?」
「いや……今日は、何となく来ただけで」
「そっか。あたしね、たまにここに来るんだ」
麻央さんは、星を見上げて小声で言う。
「嫌な……昔の夢、見るんだよね。あたしが『悪魔』に堕ちた頃の」
他人の過去に余計な詮索をするのは好かないが、学校での騒動以来、僕も彼女の過去のことについて、多少とも調べてみた。まぁ、主にヒナさんに聞いたことだけれども。………嫌な話だった、本当に。
一体、僕は彼女の想いをどこまで理解しているのだろう。ここまで、辛い人生を過ごした彼女をどこまで理解できているのだろう。
こんなにも、近くにいるのに。
僕が、彼女のことを何一つ解っていないと思うと、悔しくてたまらなくなる。
一体、僕は―――
「秀くん」
「ん?」
「星座、分かる?」
「え、あ……まぁ、多少は」
「この時季って、どんなのが見える?」
「ん……まぁ、あそこにあるおうし座とか……。全然、牛には見えないけど」
「あはは、星座って結構強引だよね」
麻央さんは笑った。
そうだ。嫌な事は考えないでおこう。それこそ面倒だ。それはただの逃避かもしれない。現実から目を背け、甘ったるい理想を追い続ける浅ましい行動。でも、とりあえず今はそれでいいんだ。
今はただ、この笑顔を見れれば、それで。
「? ……あたしの顔に何か付いてる?」
「あ、い、いや、別に……」
「?」
そんなこんなで、僕らは一時間ほど屋上にいた。