【第三十七話】執行編:決着
「終わりましたな」
アマイモンは、富士田の姿を見る。ぐったりした状態で動く気配が無い。
結局、体の一部が弱点になっていて、そこを突かない限りは不死身のようだ。今度、機会があれば、同じ構造の実験体でも造ってみよう。アマイモンは、そんなことを考えながら、立ち去ろうとした。だが、
「!?」
体が動かなかった。
「ったく、お前はいつも遅ぇんだよ」
富士田が平然と立ち上がった。そして、その目の先には、
「すまぬな。拙者の周りの砂煙がなかなか晴れなくてな。そやつを狙うに手間取った」
初見がいた。
「ぬ……何故、貴殿は生きている……? それに……何ですかな……この術は………」
「足元、見てみな」
富士田に言われ、アマイモンは目線を下の方へ向ける。
そこにあったのは、手裏剣。自身に刺さっているわけではない。自身の『影』に刺さっていた。
「“影縫いの術”。拙者個人の能力を応用させたものでな。標的の影を射抜くことで、動きを止める」
「ま、そういうこった。あぁ、そういやおれ個人の能力の構造も知りたがってたなぁ?」
富士田は、アマイモンに近付く。
「おれ自身、よくわかんねぇんだけどな。何つーか、おれの魔力ってのは細い糸みてーな形をしてるらしい。でもって、それが体のあるゆる部分と繋がってて、それが全部の代わりになれるっていうか………まぁ、何だ」
富士田は、潰された体の調子を伺うように、手足をぶらぶらさせる。
「『体のどこが潰されようが、切り離されようが、正常に動く』ってことだ、要は」
物凄いことを言った。
「ならば……何故、先程動けぬような素振りを……」
「ありゃ、フリじゃねぇ。あんな激痛くらったら、誰でもしばらく動けねぇっての」
微妙に顔を歪めて言った。そして――
「魔力は普通、決まった形がない。だから、すでに形状が決まってるおれの魔力じゃ、形状を具現化する魔法を使用するのが難しいわけだ、コレが。ま、そうしない魔法は出来るけどな」
腕を硬化させる。
「!」
「じゃあな、え~……何だっけ。名前、忘れた」
富士田は、拳をアマイモンの脳天に振り下ろした。
「ハッ、またお前かよ。一度、退いた野郎はすっ込んでろ」
「そうもいかない。せっかく、宇佐見さんがここまでして作ってくれたチャンスだ。俺は、その『勇気』に応える」
魚正は、『秋』を仕舞う。
そして、制限具であるリストバンドを外し、全ての魔力を解放する。
「俺は『スモーク』。『勇者』だからだ」
聖槍『ポセイドン』。三叉の槍の形状をした『聖装』。神より授けられし聖なる槍。
「ハッ、ンなもん当たんなきゃ意味ねぇよ」
クロセルの姿が消える。
『幻惑の眼』による幻術だ。
「それはどうだかな」
魚正は、迷うことなく槍を投げる。
投げた先には、何も無い。
目に見える分では。
「っ!?」
クロセルは、自分に向かって飛んできた槍を間一髪でかわす。もちろん、姿は見えなくしていたはずだ。
「『ポセイドン』の能力だ。物事の真実を見抜く。幻術なんて効かねぇよ」
クロセルは、ちっと舌打ちをすると、
「ハッ、だが槍を投げたのは、間違いだったなぁ? てめぇ自身が、がら空きだぜ!」
一気に魚正との間合いを詰める。
そして、氷の剣を形成する。
(もらった……!)
そう思ったクロセルだったが、次の瞬間、彼の目に飛び込んできたのは、槍。
魚正が『ポセイドン』をすでに持っていた。
「俺がいつ、投げたって?」
魚正は、クロセルに向かって物凄い勢いで突きを放つ。
クロセルは、反射的に剣で防ぐが、質が違いすぎる。剣はあっけなく折れ、クロセルは吹っ飛ばされた。
「体の液状化。液化した部分は伸ばすことも出来る。さっきは、ずっと槍を握ってたんだよ」
魚正は、気を失っている『悪魔』に説明した。
アスタロトとトモダチの戦闘は、熾烈を極めていた。
実力は、ほぼ同等といったところ。
だが、トモダチは、自分が若干押され気味であるのを感じていた。
(少し、まずいか……?)
焦りを覚える。
それと言うのも、センスの相性上、ややトモダチが劣勢だからだ。
十八番である草魔法は、アスタロトの炎魔法の前では無力。持っているセンスはそれだけではないが、やはり扱い切れていない。自分個人の能力も、『悪魔』には効かない。
思考を巡らせるトモダチ。
すると、不意にアスタロトが動きを止める。
「……あ~あ……」
アスタロトは、自分の頭を掻き、
「ごめん。やめよ、もう。足止めの必要なくなった」
背を向けた。
トモダチは、目を点にしている。
「お、おいっ! どういうことだ?」
「言ったとおり。足止めはもう要らない状況になったってこと。もともと、こんなこと億劫だったし、もう戦う理由が無いわけなの」
アスタロトは、部屋のベッドに寝そべる。
「ほんっと、面倒くさいよね~……。あ、もういいよ、行って。それとも、ここで寝られるのが不満? それなら、あたしは別の部屋に移動させてもらうから、じゃ~ね~」
アスタロトは、転移した。
「…………」
トモダチは、怪訝な顔をしたまま部屋に一人残された。