【第三十五話】執行編:向かう場所は一つ
気付いたことがある。
この城、無駄に広い。
さっき、よーこさんに言われたとおりの道を来ているが、一つ一つの廊下がやたら長い。
すでに、この城の構造自体が足止めになっている。
さらに、『悪魔』と戦わなければならないわけだから、相当なものだコレは。
今も、戦っている人達の魔力が感じられる。すぐ近くには、アイツもいるみたいだ。……って。
「よ、秀」
「うわ、いたよ」
「何だその反応!? ひどくねぇ!?」
篭がいた。
僕らは、走りながら話す。
「お前、何してるんだ?」
「クラスの人を集めてんだよ。オレの青魔術で一ヶ所に飛ばしてる」
「他の人の居場所は分かるのか?」
「まぁな。全員の居場所が分かるやつに、今、指示をもらいながら動いてる」
『全員の居場所が分かるやつ』? よーこさん以外には………あぁ、南条君か。
「一応、8人集まった。あと他は、お前とまーさん、トモダチ、筧、宇佐見さん、魚正、富士田、初見、よーこさんだ」
「おい、それじゃ合計17人だ。一人、足りないぞ」
「南条が言うには、一人……不知火さんだけ、この城に飛ばされてない。学校の校庭に残ってるらしい」
まじかよ。
「……で、秀。お前は、何そんなに急いでんだ?」
「麻央さんの所に向かってる」
僕は、それだけ言った。
「……そうか。じゃあ、話は早い」
篭は僕に、紙切れを渡す。
「ソイツに念じれば、みんなが集まってる場所へ飛ぶ。お前は、まーさんを連れて帰って来い。オレは、他のやつらのところに行く。じゃあな」
そう言い残して、篭は転移した。
走る。ひたすら走る。早く、一秒でも早く着くために。何事も間に合わなかったんじゃ、意味がない。
大切な人を守るんだ。もう二度と、何かを失いたくないんだ。
「ふむ、哀れなものだな。『漆黒の魔王』と謳われた貴様も、今や何も出来ぬ赤子同然。ただただ死を待つしかない『存在』とはな」
蝿の人は、あたしに言い放つ。
あたしは、腕を広げた状態で十字架に縛り付けられていた。軽く羞恥心を覚える格好だが、それを気にしている暇もないようだ。
蝿の人は、雷を纏う剣を取り出す。
「何か、言い残したことはあるか?」
「……別に」
「そうか」
バチバチッという音が部屋に木霊する。
「ならば、死ぬがいい」
お約束のセリフと共に、蝿の人は剣を振り上げた。