【第三十三話】執行編:怠惰と着想を求む者
「いや~、戦うのとか面倒くさいんだよね~」
俺が飛ばされたのは、寝室のような場所。
その『悪魔』は、俺の目の前で、ベッドの上に寝転がっていた。
「君さ、名前なんていうの?」
『悪魔』は、横になった状態のまま尋ねる。
「友枝 達貴だ」
「ふ~ん、そう。じゃあ、友枝クン。何も、危害は与えないからさ。しばらくの間、ここでじっとしていてくれないかな?」
などと言われた。
「待て。状況がまったく理解できないぜ。まず、ここはどこだ? 俺は、なんでここに飛ばされたんだ? あと、お前らの目的は何だ?」
すると、『悪魔』は半身だけ起き上がり、大きく欠伸をした。あと、言い忘れていたが、この『悪魔』は女の姿をしている。
「ここは『悪魔の城』。君が飛ばされた理由ははっきり言って、巻き添え。あたし達は『元魔王抹殺運動』って言って、『元魔王』を殺す、っていう運動の最終段階の真っ最中」
『悪魔』は物凄く淡々と説明する。いや、そんなことより『元魔王』って………。
「……まーさんのことか」
俺は部屋のドアに手を掛ける。
「どこへ行くの?」
「まーさんを助けに行く」
「やめてくれないかな~……。そうしないと、あたしは君と戦わないといけなくなるんだけど」
俺は、再び『悪魔』に向き直る。
「じゃあ、俺はお前を倒してでも助けに行くぜ」
しばらくの沈黙。
そして、『悪魔』が口を開く。
「……はぁ~……面倒だな~……」
『悪魔』はベッドから降りる。
「Lv4 アスタロト。足止め入りま~す……」
炎が消え、次第に辺りの様子が分かるようになる。
「富士田! 無事か!」
初見は、富士田に駆け寄る。
「あっちぃ……」
それが第一声だった。
「うむ、服は無事のようだな」
「当たり前だ。この服は綿100%だ。燃えにくいぞ、コラ」
両者とも体の方は心配していないようである。
「おお、やはり死んでおりませんか」
「『やはり』?」
初見はアマイモンの言葉に反応する。
「そちらの方、富士田、と言いましたな。貴殿の不死身という能力は、実に興味深い」
「何で、おれが不死身なのを知ってんだ?」
「先程、逃げているときにも口にしておられましたが……、吾輩が知ったのは、それよりもずっと前。Lv2の『悪魔』を送り込んだ時であります」
アマイモンは丁寧な口調でしゃべる。
「そちらでは、気付いておられなかったようでしたが、彼には、死亡時にその時の状況を情報としてこちらに伝わるよう、吾輩が弄っておりましてな。そして、その時に彼と戦闘を行っておられたのは貴殿であった。故に、貴殿の能力もこちらへ伝わって来ておるのですよ」
アマイモンは説明を終えると、一息つく。
「さて……、そんなことよりも、貴殿の能力だ。如何にして、不死身であるのか。どのような体の構造をしておられるか……」
アマイモンの姿が一瞬にして消える。
「是非一度、弄ってみたいものですな」
アマイモンは、富士田の背後から手を伸ばす。
すると、ヒュンッという音と共に、何かがアマイモンの鼻先を掠める。
アマイモンは、慌てて飛び退いた。
そこには、忍刀を構えた初見の姿があった。
「拙者には見えておるぞ」
「あ? いつの間に後ろに……」
富士田は、スピードに目が付いていけないようだ。
「貴殿、邪魔ですな」
アマイモンは詠唱を始める。
(また二重詠唱……!)
初見は駆け出す。
詠唱中に、攻撃されれば避けざるを得ない。
「残念。吾輩の詠唱の方が速いようですな」
辺りが砂煙に覆われる。
「!」
ほとんど先が見えない。
「どうですかな? これは、地魔法と風魔法を混合させたもので、貴殿の術と似せてみたのですが?」
初見は背後から一撃を喰らって、吹っ飛ばされた。