【第三十一話】執行編:敵将との邂逅
見覚えがある広間。あたしが『魔王』だった時に、よく来た場所だ。
そこは、『王の間』だった。
「ふむ、来たか」
広間の玉座に座っていた男が立ち上がる。
「ふむ、久しぶり、と言ったところか、元閣下」
見覚えのある顔。
「……蝿の人?」
「ふむ、まぁ、そこまで覚えていてくれれば良いだろう」
夜の色をした髪。額に金色の飾り物を巻いている。服装は、複雑な模様が描かれている黒い服に漆黒のマントを羽織っている。
「『魔王』バアル=ゼブルだ」
あ、この人が新しく就いたんだ。ふーん。……で、
「あたしをここに来させたのは何故?」
「おかしなことを訊くな? もう薄々分かっているだろう?」
……まぁ。
「あたしを裏切りの名目で処刑する、ってこと?」
「ふむ、ちゃんと分かっているな。人間ごときが『悪魔』の頂点に居座っているのが憎くて仕方がなくて、貴様のことは就任時から嫌悪していてな。いつ理由付けて殺そうか悩んだものだ。まぁ、理由なんぞなかろうがあまり関係ないが、後味が悪いんでな」
もはや、隠す気なんてさらさら無さそうだ。
「そんな時、起こったのがあの辞任だ。胸中で歓喜が沸いたぞ。それから、機に乗じてこの『元魔王抹殺運動』を起こして、『魔王』へ昇格。そして、執行へ。何一つ乱れない計画だった」
蝿の人は、少し間を置く。
「……ふむ、だが二つ問題があったわけだ。一つ目は、貴様の実力。雑魚が何人挑んだところで、貴様に勝てるはずもない。二つ目は、貴様が通う学校による邪魔。異質なやつらばかり集まって、皆が皆強敵だ。正直、こちらの方が厄介だ。以前、Lv2を送り込んだら、貴様に辿り着く前に死に失せたからな」
そこまで言うと、蝿の人は人差し指を立てた。
「そこでだ。俺の講じた対策はこうだ。そもそも、学校で戦うのはこちらにとってアウェー。貴様をこちらへ引きずり込んで、この『悪魔の城』で討つ」
そして、蝿の人は腕を組む。
「ふむ、まぁ、その方法が難しかったわけだ。如何に貴様をこちらへ来させるか。学校側でも貴様に監視が付いていて、近付くのさえ困難だったからな」
それは初耳だ。
「まぁ、だから事前に仕掛けておくことにした。貴様の学校にデカラビアを直接送り込んで、校庭に青魔術を仕込ませた。そして、術の効果範囲に入ったら発動させて転移。周りのやつらもまとめて飛ばす。貴様は『王の間』に飛ばして、その他はランダムで別の部屋へ飛ばしてLv4以下の者で足止め。そして――」
蝿の人はあたしを睨む。
「俺が貴様を殺す」
蝿の人があたしに右手を翳した。
あたしも素早く戦闘態勢に入るが、体の異変に気付く。
魔力が奪われている。
「ふむ」
蝿の人がパチン、と左手の指を鳴らすと、あたしの背後から十字架が出現した。
更に、翳した手から、光る縄状のものが放たれる。
「この広間には、貴様の魔力を奪う仕掛けが施されていてな。貴様は何も出来はしない」
そして、あたしは十字架に縛り付けられた。