【第三十話】執行編:ピンチと救いの手
『悪魔の城』にて、飛ばされた富士田と初見は合流していた。
「吾輩からいつまで逃げることができますかな?」
そして、『悪魔』に追いかけられていた。
「初見、てめぇまで何で逃げてやがる!」
「それはこちらの台詞だ。おぬし、不死身でありながら何故逃げておる」
「見りゃ、わかんだろ! あいつ、炎魔法使うじゃねぇか。おれが火傷嫌いなこと知ってんだろ!」
「それは、理由として成り立っておらん」
「うっせえ! おれにとってはこれが最大の理由だ!」
二人は並んで走っているが、もともとのスピードに差がありすぎるため、ペース配分がかなり違う。
初見はまだ余裕があるが、富士田は必死だ。
「どうせ……お前も、『忍』は……逃げの……専門だとか、言うんだろ。……だったら、それも……理由として……成り立って……ねぇよ」
(富士田は、体力的に限界か……)
これだけのスピードを出して走っていれば、普通の人間のスタミナではすぐ切れる。
富士田は普通ではないが、身体能力的に特別優れているわけではない。
(……致し方無い)
辺りが霧で包まれる。
「む?」
『悪魔』は一旦立ち止まる。霧で視界が悪い。
「これは、魔法ですかな?」
遁術・天遁十法の一“霧遁の術”。霧で姿を晦ますという術だ。
「なんだこれ。霧隠れってやつか?」
「馬鹿者! 声を出すな!」
「そこですかな」
『悪魔』は、声のした方へ炎魔法第一番『ブレス』を放つ。
「くっ……」
初見と富士田は避ける。
「吾輩から逃げられるとお思いで?」
『悪魔』はすでに避けた方向へ回り込んでいた。
ここで、初見と富士田はまじまじと敵の姿を見る。
黒衣を纏い、白髪の頭と立派に蓄えた髭。その姿は老爺にしか見えない。
「じじいのくせに速いな、おい」
「ほっほっほ。まだまだ若い者に劣る気はありませんよ」
『悪魔』は微笑みながら言う。
「まだ、自己紹介をしていませんでしたな。吾輩はLv4の『悪魔』、アマイモンであります」
「Lv4……そういえば、前に侵入してきたやつはLv2つってたな。それって何なんだ?」
「『悪魔』の階級でありますよ。Lvは1から5までの5段階。Lv5とは『魔王』のことでありますので、それを除けば吾輩は最高位の『悪魔』ということになりますな」
「Lv4ってのは、他にもたくさんいるのか?」
「ええ、吾輩を含め13人……いや、今は12人ですがな」
「『今は』とはどういうことだ」
初見が口を挟む。
「如何せん、Lv4の中から新たな『魔王』が決まったのがつい最近でしてな。一人だけ昇格した穴が空いているということでありますよ」
アマイモンは自分の髭を撫でる。
「さて……吾輩としたことが、些かしゃべりすぎてしまったようですな」
詠唱を始める。
(! これは……)
詠唱完了。
「逃げろ、富士田! 二重詠唱だ!」
「あ? 何だそれ」
「遅いですな」
アマイモンは火を噴く。先ほど放ったそれとは、比べ物にならない大きさと威力だ。
二重詠唱。双方の詠唱をすることで、それぞれを混合するというものだ。
今回の場合は、炎魔法第一番の二『メガ・ブレス』と風魔法第一番『ブレス』を混合させたのだ。
初見は攻撃範囲外に素早く避難するが、富士田が一瞬遅れた。
「富士田!」
そして、富士田は炎に包まれた。
「あ~参ったな、これ」
僕は、横に倒れている『悪魔』を見る。完全に伸びている。
気を失わない程度に加減をしたはずだったけど、少し手元が狂ったようだ。
壁までぶっ壊した時に、やべ強すぎた、と思ったんだ。
「これじゃ、案内してもらえないな……」
早く行かなければならないのだが。
「おや、お困りのようだね、秀くん」
背後から聞き慣れた声が響いた。
「なんなら、ワタシが手を貸してやっても良いぞ?」
よーこさんがそこにいた。