【第三話】センスの違い
人には、得意分野と不得意分野というものが存在する。
ある一分野では明確な力の差があった二人が、他の分野になると強弱関係が一変するなんてことは……まぁ、よくある話だ。
しかし、それは悔しがることじゃない。当たり前のことだが、個人には『センス』ってもんがある。生まれもっての才能。天から人への贈り物。天性の素質。天賦の才。要は、出来るやつには簡単に出来るだろうし、出来ないやつには一生掛かっても出来ないということだ。
そう、悔しがることじゃない……はずだ。
「……パスだ」
「どうした、トモダチ? あと、一回しかパスできないぞ?」
「……誰かさんが出さないせいでな」
俺は、友枝 達貴。通称、トモダチ。俺がみんなにそう呼ばせてる。
突然だが、『七並べ』というゲームを知っているだろうか。
初めにクラブ、ダイヤ、スペード、ハートの全てのマークの7を出し、そこから隣り合う数字のカードを出していくという……何というか、トランプゲームの中で知らない人は一、二を争うほど少ないであろう説明不要の超有名ゲームである。
それでもって―――
「さぁて誰かなぁ? 出してない人は」
この野郎の得意ゲームなのだ。
「あー……あたしも出せないや、パス」
ちなみに、今はまーさんも入れて3人で遊んでいる。
「僕もパス」
自分の番にまわったその瞬間にパス。手札すら見ちゃいない。俺は秀のその行為を見て、確信した。
こいつ、すでに8ヶ所を止めやがったな。
今は、特に秀の得意なルールで遊んでいる。……まぁ、どんなルールであろうが、こいつがこのゲームでビリになったのを見たことないが。弘法筆を選ばず。真に極めた者はいかなる条件化だろうと、その力をいかんなく発揮する。
特別なルールはほぼ無しで、パスは3回まで。
『七並べ』には時折、ジョーカーが入ることがあるが、今は無しだ。
こういうルールの時に出てくるのが、こいつのような『カードを出せるのに出さないやつ』だ。
出せるのだが出さない……それは、それ以降のカードが場に出るのを封じることを意味する。言わば、河の流れを塞き止めるダム。中の水を出すも出さないも、建設者の意思次第。
そして、その上限は8ヶ所。つまり、このゲームは完全ロックが完成しているということだ。
「パス(俺)」
「パス(まーさん)」
「パス(秀)」
ゲーム続行不可。この瞬間、俺の敗北が決定した。
「こんなゲームやってられるかあああああああああああああ!!」
残り2人になった『七並べ』は、言うまでもなく秀が勝った。