【第二十九話】執行編:相見える者達
「マルコシアスの魔力放出が途絶えたか……」
「…………」
筧 閃は、『悪魔』と対峙していた。
「恐らく、貴様の仲間の仕業だろうな。大したものだ、全く……」
漆黒の甲冑を装着した『悪魔』は、こもった声で話す。
「貴様も我に剣を向けるのか?」
「…………」
筧は、無言のまま自分の眼鏡に手をかける。
そして、膨大な量の魔力が溢れ出す。
「それが答えだと言うのか……」
『悪魔』は、3メートル程ありそうな槍を取り出し、身構える。
「我が名はエリゴール。Lv4の『悪魔』だ」
「……『ガーネット』、とだけ言っておく」
「ハッ、逃げずに向かってくるとは、なめられたもんだな。それとも、『勇気』がある、と称えた方が良いか?」
ボサボサの銀髪。左眼を隠した黒い眼帯。
待ち構えていた魚正と宇佐見の前に、クロセルという『悪魔』が現れた。
「足止めどうこう関係なく、2人まとめてぶっ殺してやる!」
かなり気性の荒い『悪魔』のようだ。
「こっちとしては、死ぬ気は無いけどな」
魚正は、紙切れを取り出す。
魔導具『ブルー・シート』。青魔術の性質を持つ魔導具であり、あらかじめ指定しておいた対象物を呼び寄せることが出来る。
「出でよ、『秋』」
魚正が呼んだのは、一振りの刀だった。
魔導具でも何でもない、純粋な刀。
この『秋』という名前を付けたのは魚正であり、刀といえば秋刀魚ということで、そこから付けたという、彼らしいネーミングだったりする。
「ハッ、ただの刀で勝てると思ってんのかよ。俺はLv4の『悪魔』だぜ? 見くびってもらっちゃ困る――」
魚正は駆け出していた。
そして、クロセルに向かって刀を振り下ろす。
「最後まで言わせろっての」
クロセルは、飛び退いて回避する。
「これは、ただの斬撃じゃないぜ」
その瞬間、クロセルの右肩から血が噴き出す。
「!」
クロセルは、呆気にとられる。
確かに攻撃範囲内から逃れたはず。しかし、こうして斬られている。
クロセルは傷口に触れる。そして、触れた瞬間に伝わる魔力から何が起こったかを悟る。
「……水魔法か」
「当たりだ。案外、気付くのが早かったな」
刀による一閃は、フェイク。攻撃範囲外に逃れた敵を、斬撃と同時に放った水魔法第六番『ブレイド』で追撃する。
見た目よりも攻撃範囲を広くする、トリック攻撃だ。
「ちっ、小細工を……」
そして、再び斬撃がクロセルに飛ぶ。
「でもまぁ、残念だったな」
クロセルは水の斬撃を受け止める。
「俺に水魔法は効かねぇぜ?」
クロセルが受け止めた水の斬撃は、凍り付いていた。
魚正はその光景に一瞬、怯んだ。
「隙ありだ」
白刃。
クロセルは取り出した剣で、魚正の右腕を切り裂いた。だが――
ブヨン、と魚正の腕はゼリーのようにうねった後、元に戻った。
「何とか間に合ったか」
クロセルは目を丸くする。
「……なんだ、その体は」
「俺個人の能力だ。任意で体を液状化できる」
魚正は、元に戻った右腕を普通の状態に戻す。
「ハッ、そりゃよかったな」
「!」
魚正は、自分の腕の違和感に気付いた。
凍っている。
「ヒャハハハッ、俺のもただの斬撃じゃなくてな。敵を斬るんじゃなく、凍らせんのが目的なんだよ!」
よく見れば、クロセルの持っている剣は氷で形成されていた。
「そのまま、腐れ落ちな!」
これはまずい、と魚正が思った時だった。
凍っている部分が優しい光に包まれた。
「わたしの氷魔法と白魔術で処置はしておいたよ。少し、安静にしてて」
それは、宇佐見によるものだった。
「その間、わたしが相手をしておくから」