【第二十八話】執行編:面倒な本気
「貴方は……一体、何者です?」
「僕は、何者でもない。僕は、僕だ。強いて言えば『学生』だけどな」
「御冗談を。それほどの実力を持ち合わせているならば、貴方にもそれ相応の『存在』が確立している……違いますか?」
マルコシアスは、険しい顔で言う。
「その推測は間違いであり間違いでは無い、というのが正確だろうな。『今』の僕は、少し変哲な『学生』でしかない。あんたの間違いはそこにある」
「それはどういうことでしょうか?」
「これはまだ僕の実力じゃない、ってことだ」
僕は、枷を外す。
この能力は、僕には完全に扱えない。故に、魔力を浪費するため、自身の能力を一部封印する必要がある。『聖装』使いの『勇者』と同じような理由だ。
「教えてやるよ、マルコシアス」
全てを解放する。
「これが僕個人の能力だ」
「!」
マルコシアスは動きを止める。いや、正確には僕が止めたのだが。
「これは……魔導具ですか?」
「その通り。魔導具『エレクトリック・バインダー』だ」
マルコシアスの体には、光っている縄状の物が巻きついている。
「……なるほど、雷魔法の特性を持つ魔導具でしたか。単に、対象を縛るだけでなく、その神経を麻痺させ動けなくさせる……厄介な拘束具ですね」
大した分析力だ。これの構造くらいすぐ解るか。
「しかし、解せませんね」
マルコシアスは至って冷静に言う。
「何故、このような魔導具が今、ここにあるのでしょうか? 貴方達がここへ飛ばされたのは、貴方達にとって突然の事であったはず。青魔術を使用していないところを見ると、これは事前に用意されていたということに……」
「別に事前に用意してた訳じゃないさ。これは、もともと僕が所有してる魔導具の一つだ。僕がここにあると決めたからここにある」
「……それは、どういう……」
「言っただろ。これが僕個人の能力だ」
僕は簡潔に説明する。
「『真偽の決定』。ある物事に関して、それが『真』であるか『偽り』であるかを決定する能力だ」
「……意味が理解できませんね」
マルコシアスの翼が再生した。もともと魔力で形成されていた物のようだ。
そして、翼で『エレクトリック・バインダー』を剥がす。
「……もう少し、解り易いよう、御説明願えますか?」
翼からミサイルが発射される。
「!?」
だが、ミサイルは発射された瞬間に跡形もなく消え去る。
それは破壊とも、消滅とも違う、まるで元から無かったかのように消えた。
「これで解ったか? 今のはミサイルという攻撃が『偽り』だと僕が決めたんだ」
こういうことだ。
僕は、世の中のほぼ全ての事象に干渉し、その真偽を決定することが出来る。
この能力は、根本から自然やら何やらの法則をひっくり返すものなので、必然的に多少の運命改変の能力も付属することになる。
この能力は、最も異質だとされ、全世界でも僕しか持っていない。僕だけの能力。
「僕は、『決定者』。時折、『神』とも呼ばれる『存在』だ」
マルコシアスはしばらく黙っていたが、やがて――
「道理の解らぬ事を仰るな!」
突進してきた。
「貴方が『神』ですと!?御冗談も大概にして頂きたいものですね!」
マルコシアスが詠唱を唱える。ほぼ一瞬だ。だが――
「!!」
その魔法が発動されることはない。
発動自体が『偽り』と僕が決めたからだ。
「僕は『神』じゃない。それだけは言える。僕は種族的には『人間』でしかない」
運動能力の向上を『真』と決め、僕はマルコシアスの背後に回る。
「僕は、この能力を完全に使いこなせている訳じゃない。運命改変だって中途半端だし、そもそも、この状態で立ってるだけで相当疲れる」
精神的なことを言えば、僕の理想だって『人間』のものだ。
楽しい時間をいつまでも過ごしたい、などという甘ったるいことを考えるなんて『人間』そのものだ。
そして、僕の世界を変えさせやしない、という幼稚な意思でさえも、だ。
僕は一時的に魔力の無尽蔵を『真』と決める。
「終わりだ、マルコシアス」
風魔法第四番の三『テラ・ブラスト』。
マルコシアスは、小部屋の壁ごと吹っ飛んだ。