【第二十六話】執行編:投げ入れられた戦場
目を開けると、そこは小部屋。所々、蜘蛛の巣が張っていて、長い間掃除していない印象を受ける。……って、
「どこだ、ここ」
どうやら、僕は学校からどこかに飛ばされたらしい。校庭が光に包まれた時、面倒なことになりそうだと思ったんだよ、ほんと。
魔力の質からして、あれは青魔術の類だろう。というか、空間転移自体が青魔術でしか出来ない。
僕一人だけこの部屋に転移されているところから察するに、個人レベルで掛けられる術のようだ。
他の人達もどこかにいるだろう。
「……まずは、この建物を探索するか」
「なら、ワタクシが御案内致しましょうか?」
声のした方―――真上を見る。いつからいたのか、部屋の天井に黒衣を纏った男が張り付いていた。
そして、背中から漆黒の翼を広げ、床に降りてきた。
「おや、ワタクシが何者か、という顔をしていらっしゃいますね。失礼。ワタクシは、マルコシアスと申します」
「あんたが僕達をここへ転移させたのか?」
「いいえ。ワタクシではありません。ワタクシは、そのようなセンスは持ち合わせてございません」
「あんた、『人間』じゃないだろ」
「はい。Lv4の『悪魔』でございます」
簡単に答えすぎだ。
「先ほど、ここはどこかと仰っていましたね。ワタクシがお答えしましょう。ここは『魔界』にある『悪魔の城』の2階の第4小部屋でございます」
「……さっきから、少し喋り過ぎじゃないか?」
「いえいえ。問われたら答える性でして」
まぁ、そのおかげで大体事態は把握した。
「麻央さんだな? あんた等の狙いは」
「よくお解りで。更に申し上げますと、その他の生徒の邪魔を阻むのがワタクシ達の目的でして」
「……あんたさっき、案内してくれるって言ったよな?」
「はい」
「あんたらの親玉のところまで案内してもらおうか」
「構いませんよ、ただし――」
重圧。強大な魔力が『悪魔』から溢れ出す。
「ワタクシを倒すことが出来たなら、の話ですがね」
上等だよ、この野郎。
「あ~、これはどうするべきだ?」
海藤 魚正は、悩んでいた。
さっきまで鬼ごっこをしていたはずだが、急に空間転移された。
独特の『悪魔』の魔力が感じ取れるため、『魔界』であることはすぐに判る。これでも、彼は『勇者』なのだから。
問題なのは、指揮者がいないこと。
いつもは、無口な『彼』が指揮をするのだが、今は誰もいない。
彼は、独断行動をしていいか迷っていた。
(決断する『勇気』が足りねぇみたいだな、俺は)
とりあえず、じっとしているのは止め、建物を探索し始めた。
すると、誰かが近づいてくる気配がした。魔力の質から察するに『悪魔』ではない。ということは……
魚正は、気配のする方へ進む。
そして、長い廊下の角を曲がった時、見慣れた顔が目に映った。