【第二十五話】執行編:鬼ごっこ
「あ~……暇だな~」
「じゃあ、あれに参加すれば?」
「なんだか疲れそうだから、嫌だな」
あたし達のクラスは今、校庭で体育の授業中。
ただし、今日は先生がいなくて、自習になっている。
「こらてめぇ、初見! 本気で逃げんじゃねぇ!」
そんなわけで、一部の人達で『鬼ごっこ』をしていたりする。
「甘いの、富士田。『忍』は、逃げることに関してはいわば専門家よ。捕まることがあろうなど、言語道断。あってはならぬのだ」
「ちっ、標的を変えるか……」
「富士田。ハクはどうだ?」
ちなみに、鬼役は最初に決めた鬼がタッチする度に増えるようになっているみたいだ。
「ダメだ、トモダチ。あいつ、自分の周りに結界張って触れられないようにしてやがる」
なんか、物凄く本気でやっているので、見ているだけでも面白い。
「おーい! 秀! お前も参加しろよ! お前がいりゃ、あの俊足4人を捕まえられるかもしれないだろー!」
「嫌だね。日常で能力なんざ使いたくもない。めんどくさい」
秀くんは、こういうのを望まない人だから参加していない。実はあたしが参加していないのも、彼が参加しないことにあったりする。
それにしても、本当に桁違いに速い人が4人いる。
あれは、初見くんと足立くんと宇佐見ちゃんとよーこさんだ。
速い。他の人達とは、比べものにならない。
目測でも、全員電車と並走できるかそれ以上のスピードを持っている。
もはや人間の速さじゃない。まぁ、一人だけ本当に『人間』じゃないけど。
「ヒナの能力なら、捕まえられるんじゃない?」
「かもしれないけど、参加するのはイヤ。今、新作の人形作ってるし」
この人は、綿貫 雛。
いつも人形を作っている、ちょっと変わった人だ。
「っていうか、麻央」
「なに?」
「あんたもあの4人くらい速く動けるんじゃないの?」
「一瞬ならね。あたしのは走行じゃなくて跳躍だから」
捕まえるのは無理だと思う。
「そう」
「ところで、ヒナ」
「なに?」
「今度の人形はどういうのなの?」
「あー今回のは、フランス人形を基にして作った――」
ヒナは、手に持っている人形をこちらに向ける。
次の瞬間、ジャキン! という音と共に、人形の関節部位などの隙間から刃物が飛び出してきた。ホラー映画とかに出てきそうな光景だ。
「殺戮人形」
「相変わらず物騒な物を作ってるね」
あたしの知る限り、この人はそういう人だ。
「ま、もう大体完成したけどね。近々、試す時があればいいんだけど」
そうだね、と軽く頷く。
そして、鬼ごっこの状況がどうなっているかグラウンドに目を向けようとした時だった。
あたしの目の前は白色に染まった。
神谷 良介は職員室で、先日行ったテストの丸付けをしていた。
本来、退屈なこの作業も、今は別のことで頭がいっぱいでそう感じることはなかった。
それは先日、初見が富士田から聞いたという侵入者の発言。
(『閣下』………『魔王』のことで間違いはないよな。ということは、新しい『魔王』が決まったって事だ。それでもって『野望』、ここへ来たということから推察出来ることは……)
神谷は、窓越しに校庭を覗き、ある女子生徒を見つける。
(『元魔王』の殺害、ってとこか……)
神谷は銜えていた煙草を灰皿に押し付け、新しいのを取り出す。
そして、校庭の方をぼんやりと見つめながら火を点けようとしたその時。
「ぬおっ!」
突然、校庭が眩い光に包まれた。目を開けていられない。
5秒ほどで光は消え、校庭が姿を現した。
そして、神谷は絶句する。
「……嘘……だろ」
生徒達の姿が校庭から消えていた。