【第二十二話】侵入者の話 後編
『不老不死』。それは、人間の理想の一つ。
時折、それは『死ねない』という負の面が取り上げられるが、多くの者がそれを求め続けたのは、紛れもない事実である。
彼は、『不老不死』ではない。彼は確かに16年間生き、そして老いたのだから。
だが、彼の能力は『不死』というものに、非常に近い。
だからこそ、人は言う。
彼を『不死身』だと。
富士田は、自分の首元に刺さっている剣を手で握る。
「侵入者……ま、暇潰しにはなるか?」
バキッ、という音と共に剣が砕ける。仕掛けも何もない。単に握り潰しただけ。
『悪魔』は、折れた剣を捨て、3メートルほど飛び退いた。
「人間風情がなめんな、アァン!? オレは、Lv2の『悪魔』グリス! てめぇが死ぬまでの少しの間、覚えとけ!」
グリスという『悪魔』は憤怒の表情を浮かべる。
「お前、『悪魔』だったのか。ってか、おれ死なねぇって」
グリスは、詠唱を開始する。
「おっ?」
詠唱完了。
グリスは、口から火を噴き出した。
炎魔法第一番の二『メガ・ブレス』。そこそこの大きさであり、消費魔力もなかなかだ。
「おおっと!」
富士田は、慌てて飛び退く。流石に、服が燃えたりするのはまずい。あと、火傷は地味に痛い。
「へっ、まぁ戦いってのは、こうじゃねぇとな」
逃げてる割に、かなり楽しんでいたりするが。
「んじゃ、おれも何かやってみようかな。形状を具現化する魔法は、あんま得意じゃねぇんだけど」
ちなみに、形状を具現化しない魔法は、さっき使った体の硬化や筋肉強化といったものである。
「―――la tieるっ」
噛んだ。詠唱失敗。
「あ~ったく、もういいや。やっぱ、戦いは拳で殴り合いだろ」
腕を硬化させる。
「おれは地魔法のセンスしかねぇし、その中でもこれくらいしか能がねぇさ」
富士田は、グリスに突っ込む。
「なめんなっつってんだろ、アァン!!」
グリスは、自分が使える最強の魔法の詠唱を終えていた。
炎魔法第四番の二『メガ・カノン』。炎の砲弾を発射するという魔法。
非常にシンプルでかつ強力な魔法。だが、相当な量の魔力を費やさなければ、砲弾の大きさがでかくならないという欠点もあると言えばある。
弾の大きさは大体直径15センチ。これでも、消費魔力は先程の『メガ・ブレス』より多い。
「くらいやがれええええええええええ!!」
砲弾は富士田に向かって飛ぶ。
「それってよ、砲弾がちっさくて当たりにくいのが欠点なんだよな?」
富士田は砲弾をひょい、と避けた。背後で爆発音が聞こえたが、気にはしない。何故なら、あれは痛いから。彼は一回受けたことがあるため、よくわかる。
「アァン!? くそが!」
「悔しがってる場合じゃねぇぜ」
間合いを詰め、ボディブロー。
「ぐっ……!」
グリスは、その場にうずくまった。
「おなじとこ2回も殴れば、そりゃいてぇわな」
もう一度、蹴りを入れる。
「がっ……!」
グリスはついに横倒れの状態になった。もはや戦える力は残っていない。
「あ~あ……終わりかよ。もうちょい楽しめると思ったんだけどよ」
富士田がつまらなそうに言う。
「くっ……、安心すんのは早ぇぞ……。オレは、ただの雑兵の一人でしかねぇんだからな……」
どうやら相手も、すでに負けを認めているようだ。
「バアル=ゼブル閣下の計画は、潰えねぇぞ! アァン!」
次の瞬間、なんとグリスの体が爆発した。
証拠隠滅やら何やらの自爆かと思われる。
そこにはもう、黒こげの塊しか残っていなかった。
「王道すぎる雑魚の散り様だな……」
これは、どうしようかと富士田が悩んでいた時、シュバッという音と共に一人の男子生徒が現れた。
そして、その男子生徒は現場を見て、大方の状況を把握した。
「最早、事後であったか……」
「おい、ハプニング処理班。おせぇじゃねぇか。おれがいなかったら、どうするつもりだったんだ」
「おぬしが居ようが居まいが関係なかろう」
初見 間士。
富士田と同じクラスであり、また同じ寮部屋の人だったりする。
俗に言う『忍』という職に就く者であるが、今は学校側に雇われている警備隊員のような感じになっている。
「何れにせよ、この状況は酷かろうぞ。侵入者を殺してはならぬというのに……」
「おいおい、おれは殺してねぇよ。こいつが勝手に自爆しただけで。ってかおれも結構やられてんだけど、少しは心配しねぇ?」
「おぬしは、不死身であるが故、よかろう」
ちゃんと承知していた。
「こやつは、拙者が処理しておく。おぬしは、先に部屋に戻っておれ。疾うに就寝時刻は過ぎておる。早くせんとハクに叱られるぞ」
「どっちにしろ、この服見られたらどうしようもねぇがな」
穴が開き、血が付き、ところどころ焦げている服を見て、騒がない者はいないだろう。
初見は、原型もわからないような死体を見て、あることを尋ねる。
「こやつ、何か言うておうたか?」
「……そうだな」
富士田は少し間を置く。
「閣下がどうのこうの、とか最期に言ってたぜ」
「グリスの生命反応が消えたか……」
「標的に返り討ちにされたか、それとも邪魔が入ったか……」
「どちらにせよ、期待はずれなのですぅ~」
「案ずるな、今回は失敗が前提。でなければ、あのような雑魚を一人で投入するものか」
「では、何故彼を?」
「どこまで行けるかのテストですよ」
「その時の状況がわかるように、彼の体をちょいと弄りましてな」
「面倒なことするよね~」
「てめぇは少し黙りな」
「詳細、入りました」
「ふむ、まぁ、ここからであろうな」
「ふふ……楽しくなりそうね」
「これは、面白いものが見れそうだ」
『元魔王抹殺運動』は活性化しつつあった。