【第二十一話】侵入者の話 前編
ある夜、学校に侵入者がいた。
灰色の肌と異常に鋭い犬歯。いつぞやの『悪魔』であった。
彼の任務はただ一つ。『元魔王』の抹殺。それは、新しい『魔王』からの命である。
任務実行人数は、彼一人。Lv2の『悪魔』である彼にとっては、絶好の昇格チャンスだった。
ただし、相手は『元魔王』。正面から向かって勝てるはずもない。
そこで、闇討ちというわけだ。
『悪魔』は、息を殺して暗い敷地内を移動する。暗いと言っても、今宵は満月。それなりに明るい。
物陰に隠れ、誰もいないことを確認しながら、目的の寮を目指して少しずつ歩を進める。
そして、体育館裏に回り、一気に寮へ近づこうとする。その時だった。
体育館裏に設置されている、学校の自動販売機の前に一人の男子生徒がいた。
月の光に照らされ、その姿が鮮明に映る。
黒い髪。清潔というよりは、不良のような感じのオールバック。上は黒い長袖、下はジャージ。恐らく就寝前に飲み物でも買いに来たのだろう。
富士田 健司がそこにいた。
「ん? 侵入者か? この前の白昼堂々とは打って変わって闇討ちとは、つまんねぇやつだな」
「アァン?」
『悪魔』は、富士田に向かって駆け出す。
今回の任務は、制圧でもなければ、『悪魔』本来の目的である、勧誘でもない。
標的の抹殺。
その道中、その任務を邪魔する者もまた然りである。
『悪魔』は、長剣で富士田の胸を突き刺した。
「あ~ったく……いってぇな……」
「!?」
富士田は、『悪魔』の腹を拳で殴った。
「ごふッ!」
ちょうど、この前の制圧計画時に殴られたところと同じところだ。
『悪魔』は、慌てて富士田の体から剣を引き抜き、富士田から距離をとる。
「何で死なねぇんだ、アァン!?」
急所を外したのか、と思う『悪魔』だったが、
「あ~あ……どうしてくれんだよ、コレ……」
刺された本人は死ぬどころか、穴が開いて血で汚れた長袖を気にしているくらいだった。
ならばもう一度、と『悪魔』は一気に間合いを詰め、剣で首元を一突きした。
今度こそやった、と内心で思った『悪魔』だったが、
「だから、分かんねぇかな~……おれ、死なねぇんだよ」
喉元の辺りを剣で貫かれている富士田は、さも当然そうに言い放った。
その姿は、まるでホラーのワンシーンのようにも見える。
「ア……アァン……?」
『悪魔』は何が何だかわからず、そのまま静止していた。
「いわゆる『不死身』ってやつだ。それがおれ個人としての能力だ」