【第二話】人生観
「あ~……」
「どうした、秀?」
「なぁ、トモダチ。学校の宿題って面倒だと思わないか?」
「一応、同意はするけど……その発言は、学生としてどうかと思うぜ」
「いやあ、誰もが一度は思うことだと思うよ?」
断言要素は特に無いが、僕は強くそう思う。確かに課せられた事をこなすという作業は、社会に出てから必要不可欠……寧ろ当然とも言うべき常識であるが、だからと言ってそんなものはもっと小さい頃から叩き込めば良いし、何も社会進出してから大抵出番の無さそうな高校レベルの勉強を毎日する必要もないじゃないか。
古文や漢文などという、今じゃ使われない文法を学んでどうする? 文章の辿ってきた経歴なんぞ興味は無いし、歴史は社会科で間に合ってるし、一つにまとめれば良いじゃないか。数学の虚数なんて、いつ使う機会がある? その道に進みでもしない限り、一生日の目を見る事も無さそうな分野を、何故わざわざ頭に入れなければならないんだ。
そもそも学歴が無ければまともな仕事に就けないという現代社会のシステムがおかしい。どうりで格差社会が無くならない訳だ。もっと自由であるべきなんだ。この世を平和で満たすような方法が、どっかに存在するはずだろう?
……まぁ尤も、裏の社会に住むような僕達には、そこまで関係無い話かもしれないが。
「……お前って、結構ダメ人間だよな」
ふん、何とでも言うがいいさ。
「僕は、自分の考えを心の奥に押し留めるような人にはなりたくないんでね」
「つまり、自分に正直に生きたいってことか?」
「そういうことだな」
「…………」
何か、妙に痛い視線を感じる。
「何だ、その無言」
「……いや、よく言うぜ、って思ってな」
トモダチは深く溜め息を吐き、
「俺から見た限りは、ちっともそんな生き方してないからな」
そんなことを、半分からかい気味に、半分シリアス気味に言った。何だか、面倒な話になってきそうな雰囲気だ。
ふと、時間を確認してみる。そろそろ、日付が変わる時間だった。
言い忘れていたが、この学校は完全寮制である。生徒は皆、自分達の部屋がある。
それで、僕はトモダチと同じ部屋なのだ。本当はもう一人いるのだが……随分前にどっか行った。
「そろそろ先生が巡回する時間だし、もう寝る」
宿題がまだ少し残っているが……まぁ、明日の朝やればいいだろう。
話をぶった切る形で、僕は布団の中にうずくまる。
目を瞑る直前、どこからかもう一度溜め息が聞こえた気がした。
しばらくして、僕は暗闇の中で目を覚ました。
そういえば寝間着に着替えてない。
「……ま、いっか……面倒だし」
自分でも思う。
僕はダメ人間だな、と。