【第十九話】ある寮部屋の風景
ある寮部屋にて。
「おい、筧」
「………何用」
「お前、この学校の襲撃事件後の『悪魔』の動きはわかるか?」
突然の質問。答えられなくはない。
「………把握していない。だが、推測はできる」
「推測?」
「………『魔界』に動きが無い。最近、『悪魔』の活動が視られない」
「なるほどな。ってことは、何か計画してる可能性もあるわけだ」
「………恐らく」
「適当に何か対策でもしておくか?」
「………するに越したことはない」
「よし。んじゃ、増援要請でも今の内に――」
「その必要はない」
「ん? 何でだ?」
「………多分、ボク達だけで大丈夫」
彼の脳裏に、同じクラスの人物が過ぎる。
「……ま、お前が言うなら別にいいけどよ」
今更だが、筧 閃こと悠木 菖蒲と話しているこの男は、海藤 魚正。
コードネーム『スモーク』。悠木 菖蒲と同じ『勇者』の職に就く者である。
「………海藤 魚正」
「なんだ。っていうか人をフルネーム呼ぶ癖どうにかならねぇか?」
「………『ポーカー』を知っているか」
「は?」
「………少しやってみないか」
「おいお前、どっから出したそのトランプ……」
『無口その1』の性格は、最近、変わりつつあった。
またある寮部屋にて。
「……暇だ」
「ゲームでもやっていろ」
物凄いあっさりした返事が返ってきた。
「おいおい、ハク~。その切り返し方はねぇんじゃねぇの? もうちょいリアクション取れよ、つまんねー」
「俺にユーモアを求めるな」
「あ~、何か起きねーかなー。こうバーンとでっかい事件みたいなのさぁ」
「この前あっただろう」
「あんなもん事件のうちに入んねーよ。敵の黒子は何だアレ。劇でもやるのかっての」
「あの事件はかなり規模が大きかったぞ。何せ、先生が全員導入されるくらいだからな」
「だーかーらーよぉー! 敵がちっとも強くねぇんだよ! 雑魚ばっかで!」
ハクと呼ばれた男は、少し顔を顰めた。
「富士田。意味無き戦いを求めるは、愚の骨頂。戦いは、理念の下に行うべし。娯楽なぞ求めるな」
「うるせぇな、ハク。説教なんぞ聞く気はねぇぞ、おれは」
富士田は、両手で耳を塞ぐ動作をする。
「それにだ。それを言ったら、戦いに娯楽を求めることこそ、おれの理念だぜ」
「……ふん。ただの屁理屈だな」
異質な能力を持つ2人が繰り広げる、変哲な会話だった。