【第十八話】騒乱と新たな統率者
「困りましたね。コレは」
何が困ったか。
それは、『魔王』の辞任による、『魔界』の大混乱の処理だった。
「本当に参りましたね。えらい仕事を残していきましたよ、あの方は」
それは、側近であった彼、マルティムの側近としての最後の仕事でもあった。
マルティムは、机に山積みにされた書類を見て溜め息を吐く。次期『魔王』が決まらない限り、この騒ぎは収まらないであろう。
そもそも、『魔王』が辞任するなど前代未聞。普通、『魔王』は生涯その職に在り続ける。それ故、騒ぎはこれまで以上に大きくなっていた。
更には、裏切った『元魔王』を抹殺する、という『元魔王抹殺運動』なぞというものが起こっていたりする。しかも、発案者が次期『魔王』の有力候補であり、このままだと『悪魔』総出で『元魔王』である彼女の抹殺を実行する勢いである。
実のことを言うと、この運動に関しては、マルティムは乗り気ではない。
何故なら、彼こそ『元魔王』の辞任の手続きを行った張本人であったりするからだ。学校制圧計画が失敗した後、彼女から頼まれて。
(ここまで騒ぎが大きくなるのは予想外、でしたね)
書類をざっと見終わったマルティムは、一息つく。
その時、扉が開いて中に誰かが入ってきた。
ボサボサの銀髪と、左眼を隠した黒い眼帯。
マルティムにとっては見慣れた顔であった。
「クロセル、何の用です?」
「……Lv4のやつらで集まって次期『魔王』を決める会議を開くんだとよ。ったく、どうせゼブルの野郎が即位するに決まってんだろが」
クロセルと呼ばれた男の『悪魔』は、さも面倒臭そうに答えた。
「だから、てめぇもさっさと来やがれとさ」
「わかりました。では、少し書類を片付けてから――」
ふと、クロセルの視線がこちらに向けられていることに気付く。
「何です?」
「てめぇ、その顔の『契約印』を俺に見せるな。気分が悪くなる」
「ふむ、そうですか。なら、早々に部屋から立ち去ると良いでしょう」
実力こそほぼ同レベルだが、センスの相性上、クロセルの方が分が悪い。
しばらくマルティムを睨んでいたクロセルだったが、やがて、ちっと軽く舌打ちをして部屋から出て行った。
(どうも、嫌われてますね)
彼の前で軽い言動をするのは控えよう、と思いながら、マルティムは書類を片付け、会議室へ向かった。
その日、13人のLv4の『悪魔』達が行った会議で、次期『魔王』が決定した。