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僕の世界  作者: Sal
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【第百二十七話】修学旅行の話 6

 最悪と言っていられるうちはまだ最悪じゃない、なんてシェイクスピアは言っていたけれど、敢えて言おう。最悪だ。


 どうにもおかしな話だとは思わないか。僕の行く先々で、まるで待ち構えていたかのように面倒事が頻出する。僕にじっとしていろ、という天からの警告か? ……しかしまあ、どうにせよ自分から行動した上で巻き込まれた以上、少なくとも今の状況は自分達の力で何とかするしかない。起こってしまったからには、とやかく言っていても仕方が無いからだ。


 生きていく上での困難を一つずつ乗り越え、人は成長していく。



「でも流石にこれはちょっとキツくないか?」


 目の前に広がるのは、怒りに狂った赤毛の『妖怪』の群れ。キジムナーは割と人間に友好的だと聞いたことあるが……どうもこいつらは少数派らしい。


 風魔法第二番の二『メガ・サイクロン』。超局地的に竜巻を発生させ、群がるキジムナー達を吹き飛ばす。


「おい、篭。亀の王は出せないのか?」


「無理だな。見た通り、ここら辺は下に海底洞窟っぽいのが通ってて、地盤がかなりモロい。アクを召喚したら重みで崩れちまうよ」


「なんてこった……」


 キジムナーの数はまだまだ減ってない。そんなに強い分類の『妖怪』じゃないと聞くが、それでも家畜を滅ぼしたり、船を沈めたりしたという伝承もある。それなりに妖力は高いと考えて良いだろう。そんな連中がこんなにいっぱいいる。


「参ったな……」


 更に言えば、さっきから僕自身の魔法の威力があまり高くない。どうも、昼間の吸血でミラーカさんに魔力を吸われすぎたらしい。魔力の蓄積が上手く出来ずに、中途半端なダメージしか与えられない。現に、僕の風魔法で吹き飛ばされたキジムナーはすぐに起き上がってくる。まだ魔力は少ししか消費してないのに、もう息が上がってきた。このままじゃ、全部倒し切る前に魔力が枯渇する。だったら――


「篭。お前に任せていい?」


「はあ!? 何言ってんの!? この数をオレ一人にやらせる気か!?」


「だってねぇ……僕は元々体力使う長期戦は苦手なのに、その上に不調が重なるのはなかなか酷ってもんだよ。それに比べてお前は修行で鍛えたご自慢のスタミナがあるじゃないか。召喚獣を封印したって、そう簡単にやられやしないだろ」


「最終的にやられるじゃん! ダメだろ、それ!」


「だからそうなる前に、僕が助っ人呼んでくるって話」


「今まで来た道、戻る気か!? そんなに保たないぞ!」


「お前もう少し魔力探索を鍛えろよ。すぐ近くに………って、ありゃ?」


 すぐ近くに居るとは察知していたが、予想以上に近かったようだ。これなら僕が呼びに行く必要も無い。



「……ふん、こんな無人島に霊験灼然れいげんいやちこな地があるとはな」



 なぜならその人達は、すでに僕らの後ろに居たのだ。


《仲間か!?》


《構わぬ、纏めて遣らえ! 穴に近付けさせるな!》


 その存在に気付いたキジムナー達が飛び掛かってくる。


「邪魔だ」


 瞬間、バシィッ! とキジムナーの体が空中で勢いよく弾き返され、他のキジムナーを巻き込みながら吹っ飛んでいく。これはまた、随分と強力な結界なこった。


 僕はその結界を張った人物を見る。他の人間よりも白い肌。手に持った札には、奇怪な数学式が書き込まれていて、内容は理解できそうもない。


「ハク!? それから、初見も!?」


 篭が驚いたように声を上げる。ってか、本当に気付いてなかったんだなコイツ。


「いやあ、助かったよ。二人とも。偶然、こんな場所に来てくれるなんて」


「……ふん、『偶然』では無い。この島から発せられる霊力を辿れば、必然としてここへ辿り着く。ただ、お前達の方が早かったというだけのことだ」


「拙者は単なる付き添いよ。こやつに雑用を任されたものでの」


 初見君がキジムナー達に目をやり、自らの懐に手を伸ばす。


「しかし暗殺等ならば受け持った事はあるが……こういった状況は、遁走の訓練しか受けておらぬ。ここは一つ、奥の手を使わせてもらおう」


「え、ちょっ、何を……」


 取り出したのは、やじりのような形をした一枚の手裏剣。



「『宝貝パオペイ』――――火竜剽かりゅうひょう



 一瞬、何が起こったか解らなかった。キジムナーの群れに手裏剣が放たれた瞬間、爆発音と同時に炎と熱風が吹き荒れ、キジムナーを一匹残らず吹き飛ばした。何というか、一掃した。これ以上に無く、完璧に。


「……こんなものだの」


 一気に静かになったが若干燻ぶった臭いが残る森の中で、篭はぽかんとした表情で立ち尽くしていた。多分、僕も似たような状態になっていたかもしれない。ハク君と初見君はそんな僕らに目をくれることなく、海底洞窟の見える穴に近付き、中を覗く。


「……やはりか」


 ハク君が呟いた。


「? やはり、ってどういう……」


「この穴は『霊界』に通じている」


 『霊界』。また妙な単語が出現したもんだ。


「それってつまり――」


「一概に『霊界』と言っても、その種類は多々ある。地理的条件、更にこの状況から類推すると……恐らくこの穴に通じているのは、ニライカナイだ」


 ニライカナイ、ってのは確か……沖縄とかに伝わる、死者の魂が還る場所か。


「それで霊気が濃かったってことか」


 篭が納得したように頷く。


「ニライカナイは、神々の住む常世の国にも繋がる『霊界』だ。キジムナー共が群れて守護していたのも、島の周囲に張られていた不可視の結界も、これで合点がいく」


 ハク君は自ら確認するような口調で述べた後、溜め息を吐いてここまで来た道とは別の方向に向く。こんな方向感覚が狂うような森の中で、良くこうも簡単に方角を決められるものだ。


「行くぞ、初見」


「うむ」


 それだけのやり取りで、二人は同時に歩き出した。


「ちょっ、待てよ! どこ行くんだよ、お前ら!」


「……ふん、島の宿泊施設だけは明らかに人工的な物。結界が張られている以上、一般人が入れる訳も無い。そして学校の毎年の修学旅行の行き先は、この島と聞く。となれば、『霊界』への道が存在するこんな島に施設を建てたのは他の誰でも無い。うちの学校だ」


 ハク君は振り向くことなく、そのまま続ける。


「奇人教師の集まるあの学校だ。少し考えれば予想は付く。これは学校側の仕組んだゲームとでも考えれば良いだろう。毎年、この島の謎に気付き、それを解く者が現れるか否かを判別する、というな」


「何のために?」


「……ふん、さあな。謎に気付く洞察力。解決しようとする行動力。ここまで辿り着く探索力。キジムナー共に勝る戦闘力。もしかしたら、そんな能力を併せ持った逸材を選別でもしてるのかもしれんが、そんなことは俺の知った事ではない」


 淡々と早口で喋るハク君。その姿はどこかイライラしているように見えた。


「『霊界』へ繋がるこの島に、何日も留まっているのは胸糞が悪くなる。こんな事を企画している先生達に、文句の一つでも言わなければ気が済まん。俺達は神谷先生を捜す」


 そう言って、二人はそこから去ってしまった。


 ……やっぱ、ハク君は霊的『存在』だからそういうのには敏感なのだろうか。普段冷静な彼の、あそこまで直情的な姿は初めて見た気がする。初見君は何だか振り回されている感じがしたが、本人はそんなに気にしている様子は無さそうだった。『忍』っていうのは、そういうのに慣れているのだろうか。


「……戻るか、篭」


「ああ……」


 気絶しているキジムナー達が目を覚ます前に、僕らはその場から離れることにした。






 来た道を戻る途中で、正面から物凄い形相で息を切らして走ってきたトモダチに遭遇し、いきなり僕は手を引っ張られて砂浜まで連れて行かれたのだが、森に一人残された篭がこの後夜中まで迷っていたというのは…………また別の話。

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