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僕の世界  作者: Sal
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【第百二十一話】新たな任務

 例えばの話だ。


 今は亡き愛人とのツーショット写真と、鑑定士に見せたらそれより遥かに高い価値を持つ石ころがある。


 この二つをそれぞれ焚き火に誤って投入したとしよう。この内一つだけを炎から取り出せるとしたら、果たしてどちらを選ぶだろうか。


 ……まぁ、余程の冷酷者か金の亡者でもない限り、大半が前者を護るんじゃないだろうか。というか、普通に考えて火の中に入れたくらいで石が無くなるなんてことは無い。ほっといて火が消えた頃にでも回収すれば良い。だが写真は違う。いとも簡単に燃える上に、思い出というものはこの世に二つ無い貴重品だ。当然、護るべきだと認識するだろう。それこそ火を見るより明らかだ。


 しかし、だ。ちょっとした手違い。一瞬の判断ミス。たったそれだけのことで護るべきものを失った者が居るとするならば、そいつに何て声を掛ければ良いか。哀れみか、嘆きか、それとも悔やみか。


 ……だがまぁ、いずれにしろ―――



「俺に答えは出せねぇな~ー……」


 何故なら、そいつは俺自身のことだからだ。


「はぁ~ー……よく寝た……」


 妙な夢を見ちまったもんだ。


 俺はベッドから起き上がり、お気に入りとなっている広間のソファまで移動して寝そべる。何と言うか、ここが一番居心地が良い。


「フッフッフッ、偲覇殿。寝てばかりでは眼が腐るぞ?」


「… … …というか今は昼十一時だ。… … …起きろ」


 不意に声を掛けられた。


「ん、何だ? 帰ってきてたのか、ジョウガさん、ゼツさん」


「つい先程だがね」


 紺色の着物に大きな笠を口元すら見えない程深く被ったその人物は、広間の和式スペースにある座布団の上に正座して座る。


「… … … …」


 そしてその人に続き、黒い長着に白い獣の仮面を着けて傘を二本腰に携えている人物も、その向かい側に座る。


 ……やっぱあの二人は、この組織の中で最も(外見的な意味で)異質な二人だと思う。二人並ぶと尚更だ。お蔭で、あの和式スペースはどうも居心地の良い空間には見えん。気味が悪い。ここは室内だぞ。


「ああそうだ、偲覇殿。『天帝』様がお呼びだ。すぐに行くといい」


「俺を? ……はて何用なんだか」


「フッフッフッ、また何かやらかしたか?」


「『簒齎者』の一件以来、任務は無かったはずなんだがな~ー……」


 それに、ずっと自室で寝てたし問題の起こしようが無い。


「… … …早く行け。… … …上司は待たすものでは無い」


「へいへい……面倒くせぇ……」


 この生真面目め。


「… … …何か言ったか」


「仕事熱心な御方で」


「… … …嘘を吐け」


「どうせ嘘吐きライアーだよ」


 俺は起き上がり、広間を後にする。嗚呼、すぐに戻ってくるぞ我が特等席。


 広間から出る時に背中から妙な殺気が漂っていたのは、気のせいということにしよう。






 『家族』のメンバーは全部で十名。人外が混ざってたりもするが、その中で組織を束ねる『人間』が一人いる。


「やっと来たか、偲覇」


 天神木 帝釈(てんじんき ただとき)。通称、『天帝』。そろそろ喜寿を迎える元気ハツラツ爺さんだ。


「全く、お前さんの性格には色々と手を焼く」


「イライラしないのが長生きのコツなんだそうだ。あんたもあまりお怒りなさるな、『天帝』様」


「そうか、よく解った。お前さんは『抜本塞源ばっぽんそくげん』という四字熟語を知っているか?」


「弊害の原因を根元から断つ、ってやつか~ー……イライラの原因でも見つかったとか?」


「年寄りをおちょくるのも大概しておけ」


 『天帝』様が懐の金剛杵をちらと見せる。怖い怖い。


「……で、俺に何か用なんだよな、『天帝』様?」


「もちろん。お前さんに頼みたいことがある」


 待機命令なら大歓迎だな。


「『簒齎者』の捕獲にもう一回試してみてくれ」


「断る」


 何故、よりにもよって一番嫌な事を頼むか。


「それに行かせるなら行かせるで、もう少し生徒の情報が欲しい。あの学校には化け物が多すぎる。前回、酷かったぞ」


「それは『行く』という事で解釈して良いのか?」


「随分と都合の良い頭だな~ー……」


 確かにそのような意味に聞こえたかもしれんが、あの学校には出来れば行きたくない。約一人、絶対に敵わない異常者がいるからだ。


「というか、何でそもそも俺なんだ? 他にも居るだろうに」


「お前さんだけここ数週間、これ以上に無く暇そうだったからだ」


 寝てたのがあだになったか。不覚。


「はぁ~ー……少し考える時間は貰えないか。流石に、今この場で決断できそうも無い」


 これはただの逃げだが、一応事実でもある。


 『対人最強』とも呼ばれた『簒齎者』を捕らえるということは、かなり命に関わってくる。奴を匿ってるあの異常者や、教師達、クラスメイト、それから殺しちゃならない例の二人も出てくる。一度、失敗している訳だから更に警備も厳しくなってるだろう。そして、何よりも……怖い。


 そんな俺の気持ちを察したのか『天帝』様も、


「まあ……良いだろう。返事は早めに寄越せ。長引かせると、お前さんはとぼけるからな」


 妥協したみたいだった。


「恩に着るよ~ー……『天帝』様」


 俺は軽く一礼してその部屋から去った。


 正直、あの場で答えても良かったが、一度判断ミスを犯したこの俺だ。


 少しくらい慎重になった方が良いだろう。多分。

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