【第十二話】崩壊編:勇気を携える者
悠木 菖蒲。『勇者』という職に就く者の中での最高権力者。
現時点で、最強の『勇者』である。
彼の祖先である悠木 柘榴は、『勇者』の創始者。
ちなみに、コードネームの『ガーネット』とは別名『柘榴石』と言われているので、彼の名と掛けている。石言葉は『権力』や『勝利』とかで、割と縁起が良さそうだから、というかなり適当な理由でコードネームとして採用されていたりする。
しかし、『ガーネット』は最高権力者コードネーム。最強の証でもある。
『悪魔』ならば、そのコードネームを聞いただけで震え上がるだろう。
そして彼、悠木 菖蒲こそが今の『ガーネット』なのである。
ただ、最高権力者といっても別に何か特別なことをすることはなく、やることは他の『勇者』達と同じだ。
『魔王』の討伐。
彼は、特別な『存在』が集まるこの学校に通い、『魔王』に繋がる情報を調べていた。
ちなみに、知っている者ならば、『悠木』という名字を聞いただけで『勇者』だとわかってしまうため、偽名を名乗っていた。時折、珍しい名前だと言われていたが、それだけで偽名とばれることはなかった。
「コードネーム『ガーネット』、悠木 菖蒲……最強の『勇者』として、ボクはあなたを討つ」
『魔王』が眼前にいる今、偽名を名乗る必要は無い。
「……これは、手強いね」
早々に終わらせるつもりであった『魔王』は、眉間に皺を寄せる。
(ここで指示を出すはずだったんだけどな)
『魔王』は、その手に持つ真っ黒な岩の塊を振り、衝撃波で『勇者』を攻撃する。
だが、何度やろうとすべての攻撃が防がれていく。
聖剣『アスンシオン』の力による魔法障壁といったところだ。さらに言えば、聖剣の力は闇魔法や黒魔術といった凶悪な魔力に特に強い。
破壊剣『ハデス』の魔力は本質的に黒魔術によるものなので、相性が最悪だ。
(仕方がないね)
『魔王』は詠唱をし始める。『勇者』はそれに気付いてはいるが、『ハデス』による攻撃が止まないため、どうしようもない。魔力蓄積と魔力放出を別々に行っているところを見ても、この『魔王』の実力が窺える。
詠唱完了。
「『魔王』は炎魔法を使える、っていうお約束知ってる?」
業火。それは、一瞬で『勇者』を包み込む。
炎魔法第五番の三『テラ・スフィア』。球体状の炎で敵を包むという魔法。
彼女の放ったソレは軽く5メートルを越す。消費魔力は相当なものだろう。
『勇者』は険しい表情になる。攻撃自体は防ぎ切っているが、激しく燃え盛る炎は、視界を奪っていた。
そのため、背後に回り込んでいた『魔王』に気が付くことができなかった。
「!」
巨大な岩の塊が『勇者』に振り下ろされる。
ガァンッ!!!
炎が消え、視界が晴れる。
そこには、折れた剣を持つ『勇者』の姿があった。
当たり前のことを言うが、聖剣はそうそう簡単に折れるものではない。何故、折れたかという理由は、『魔王』が持つ武器の能力に他ならない。
破壊剣『ハデス』。『破壊』というものに、とことん特化した魔導具。
『直接触れた物を破壊できる』という反則的な能力を持つ。例え、聖剣だろうとだ。
『勇者』は根元あたりで折れた聖剣を、ちらっと見る。
修復は可能だが、すぐには無理。つまり、防御不可。
『魔王』は『ハデス』を振り上げる。
「敗因を教えてあげる。『勇者』はね、独りじゃ『魔王』に勝てないんだよ」
それがお約束、と言い『ハデス』を振り下ろす。
黒い衝撃波が『勇者』を襲う。
『勇者』は対抗手段を出すために魔力を溜める。
次の瞬間。
黒い衝撃波が消えた。消滅とは違う。何もなかったかのように、ふっと無くなった。
『勇者』はまだ何もしていない。
『魔王』と『勇者』は、両者とも目を丸くする。
「やめるんだ、麻央さん」
『魔王』は声が聞こえた方を振り向く。
そこには、見慣れた二人の少年が立っていた。