【第十話】崩壊編:とある宿命
ここは、学校から少し離れたところにある採掘場。ずいぶん前に廃れて、今では完全に無人と化した寂れた場所だ。ただ、今はあたしがいるが。
あたし達の学校は、かなり山奥にある。通う全員が、例外なく特別な存在である以上、あまり人目につく場所に建てるわけにもいかないからだ。一番近いコンビニだって30分くらいかかる。
そんなわけで、普通の人間が立ち入れる場所としては、この採掘場が一番学校に近い。
それが何を意味するか。
答えは簡単。監視の目がない。
特別な存在というのは厄介なもので、常に危険がつきまとっている。現に、あたし達の学校でも命を狙われている人は少なくない。故に、学校の周りを監視しておく必要がある。
しかし、普通の人間が監視の目に気付いて、学校の存在意義を下手に知っても困るのだ。よって、普通の人間が入ってこれる場所――ここのような所には、監視は張られていない。しかもここは、普通の人間さえほとんど来ない。一石二鳥。
先生達の目は逸らしてあるし、彼には足止めを送った。彼は、あたしがいなくなったと知れば、真っ先に探す人だろうから。
だから、ここまで来れば、あたしを追いかけてくる人はいないはず――――
「いないはず………なんだけどな」
あたしは、その人を見る。
大きな丸眼鏡。そのレンズの向こうに見える垂れ目。
『無口その1』と呼ばれている人がそこにいた。
「…………」
相変わらずの無言。
「どうして、ここがわかったのかな?」
「……学校の周辺に監視カメラが付いているのを知っているか」
案外、しゃべっているのを初めて見るかもしれない。
「知ってるよ」
「………その映像の中に、この場所の方面に向かっているあなたが映っていた」
「……あの監視カメラの映像って学校以外の所で管理されてなかったかな?」
「………ハッキングというのを知っているか」
「…………」
これは驚き。
「それ犯罪じゃ……」
「この世にはあらゆる罪が許される職が存在する。それは『あるもの』があれば、老若男女問わず誰にでもなれる、正義の職業」
いつもの無言からは想像できない早口で説明する。
「人はそれを『勇者』と呼ぶ」
ああ、なるほどね。納得。
「『勇者』に必要なものは『勇気』。いかに敵が強大だろうとも立ち向かう『勇気』。それが無い者に『勇者』になる資格はない」
彼はしゃべり続ける。
「『勇者』の目的はただ一つ。その目的に沿った行動をした時のみ、いかなる罪も許される」
彼は言う。
「『魔王』を倒すこと」
と。
「黒井 麻央。いや、今は『魔王』と呼ぼう」
「なに?」
「『勇者』として、ボクがあなたを倒す」
「やってみる?」
黒衣を着用する。
あたしは『魔王』。
『漆黒の魔王』―――黒井 麻央だ。