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異世界転生 七 ~ デメテルの果実

「申し訳ございません。デメテル殿」


 霊廟の封印を解いて、パチェッリが姿を現した。儀式の前とは打って変わって、いつものはつらつとした表情に戻っている。


「これは、どういうことですか?」


「このモノリス(スマートフォン)は便利なものでしてね。相手に持たせた道具を使って、音を送ったり聞いたりできるのですよ。貴方と儀式を共にした助手はすぐに狂ってしまうので、こんなことをせざるを得なかったのです。隠していて本当に申し訳ございませんでした」


「要するに今までのは、司祭さんと俺の演技だったってことだ」


 パチェッリはトッシェから小さなイヤホンとマイクを受け取り、懐にしまった。


「しかし、貴方の秘密はよく分かりました。貴方は夫を転生させた際に、自分の魂の一部すらも異世界に送ってしまったのです。つまり、半魂(はんこん)の状態……4代目カスパールと同じように、転生の儀式から受ける精神的苦痛に対する耐性を得ていたというわけですよ。カスパールは妻と自分の魂を半分ずつしか転生させられなかったのですが、貴方はそれを上回っています。まさに盲点。狂気に対する耐性という、身体に遺された(しるし)だったのです!」


「まさか、それを調べるためだけに……私は、娘を……」


 パチェッリの拍手に、デメテルは膝をついた。それを見たトッシェは、アデラインの屍体を見下ろして呟いた。


「安心しろ。これはお前の娘じゃない。しかし、俺の最高傑作だった。下の口の具合も、場合によっちゃ背中の口での暗殺も完璧。それが、この様だ。おまけに俺のタマを一つ爆破しやがって。枢機卿の命令でなけりゃ、お前なんぞとっくに――」


 トッシェは言い終える前に、再び床に倒れていた。祭服の背中が焦げ、煙が上がっている。


「出力が強すぎたようですね。しかし、今は良しとしましょう」


 パチェッリは火花と電撃を散らす短銃を手にしていた。これも転生評議会からくすねてきた異世界の道具のようだった。


「本当にご苦労様でした。でも、私もここまで来るのに大変だったのですよ」


「今更、何?」


 デメテルはパチェッリの真意が分からなかった。枢機卿の命令で自分の秘密を探る手筈ではなかったのか。


「私は孤児院にいた。ある男から自分の母について聞くまで、自分を孤児と信じてきた。それからは、母に会う為にどんな犠牲も厭わなかった。自分を偽り、名前を変え、顔を変え、声を変え……そして性別まで変えた。転生評議会を牛耳る枢機卿に近づき、情報を集め、ここまで辿り着いた」


「まさか……」


「貴方の娘は既に娘ではない。つまり、30人の転生を成功させれば娘に会えるという、貴方が枢機卿と結んだ契約は無効であって、一切、貴方を束縛しない」


 パチェッリはデメテルに手を差し伸べた。


「さあ、帰りましょう。母さん」

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