〜儀の終わり〜
「そろそろ時間だね〜あまり長居出来ないんだここ。」
管理者が言った。
まだ整理がついた訳じゃないこの状態で
外に出る事に不安を憶えたが時間は有限だ。
仕方ないのだろう。
「そうか…管理者さん
色々と助かった!ありがとう」
相変わらず正体は分からないし信用して
いいのかも分からないが崩壊していたあそこから救い、
俺の為に話しをしてくれた事実は変わらない。
「ふふっ。君、変わってるね〜普通の人は
この状況でその言葉は出てこないよ〜」
初めてだろうか。管理者の含み笑いが聞こえた。
「しかも落ち着き過ぎだよ君。まぁそれも個性か!あっ!!大事な事、言うの忘れてた!」
管理者の若干、慌てた声が響く。
まだ何かあるのかよ…お腹いっぱいなんだけど…
無言で一つ頷くと管理者が、
「職業選択は無事、完了してるけど女神の加護が付いてない儀だから普通の人達より職業から受ける恩恵が少ないんだっ!」
ーーこの人はどれだけ俺の気持ちを落とし続けるんだ…
もう初っ端から壁ありすぎだろ…
「しかもアビリティーも受け取れずにリセットされるから正直、外の世界じゃ使い物にならない…ね…」
最後は凄く申し訳なさそうにこちらに言った。
勘弁してくれよ…
うん?アビリティーを受け取らずに?
「なんか崩壊が始まるちょっと前にアビリティーを授けるとか言って光りの球体を受け取ったよ?そこから崩壊が始まったんだけどな。」
「アビリティーを授かった!?本当に!?
今までアビリティー持ちのイレギュラーなんて
居なかったはずだ…ちょっといいかい?」
そう言うとこちらに近付いてくる気配がした。
びっくりして反射的に構えるが止まる気配はない。
もう目と鼻の先だがやはり姿は見えない。
すると、腹部に手の感触を感じた。
慌てて振り払おうとしたが、
「危害を加える事はしないし出来ないから安心して。
そのアビリティーを少し確認させて。」
管理者の鋭い声に一応は動きを止めたが、得体の
知れない場所に姿の見えない相手。
嫌でも警戒はしてしまう。
腹部から魔力がゆっくり流れる。管理者の魔力だろうか。
「そのアビリティーを受け取った時、
何のアビリティーとか聞いたかな?」
「いや何も聞いてないんだ!授けますとしか。
このアビリティーがどんなのか分かるか?」
「うーん駄目だ。やっぱ〝こっち″と違うから解析出来ないね〜何のアビリティーかは分からないけど確かにあるね。」
「そうか…」
腹部の感触と魔力が消えた。
結局、何も分からないままか。
俺から負のオーラが漂い始めた時、
暗闇の世界に光りの亀裂が走り始めた。
さっき言っていた時間が遂にきたみたいだ。
「そろそろだね〜。八雲佐乃。」
初めて管理者に名前を呼ばれ、下を向いてた視線が管理者の方に移る。亀裂の光りによって
暗闇に光が差し始め、管理者を足元から照らし始める。
「外の世界は残酷だよ。出来ない者に容赦ない。君は幾多もの負の遺産を抱えている。能力も分からないし女神の加護もない。だけどーー」
「この世界にいる限り、僕や女神は君を見守り続けるよ。大変だろうけど負けないでね!また会えると思うからその時まで生きてるんだよ〜!」
管理者の間延びした声と共に亀裂が四方八方に
走り抜け、暗闇が砕け散り破片が飛び散る。
「ちょっと待ってくれ!まだ整理もついてない!
それに出てからどうしたらいいんだ!
えっ?ちょ、、うわぁああーー」
言い終わると同時にあの浮遊感。そう。
足元の暗闇が砕けたからか落下している。
慌てて、管理者の方を見るが
光が強すぎて相変わらず姿は見えなかった。
ーーあぁ…これ平気なのかな…しかしなんか眠いな…
この状況にも関わらず、突然襲って来る
激しい睡魔に負けそっと瞳を閉じた。
『ーーーー子なの。ーーー佐乃。』
ーー誰の声だろ。聞いた事があるような。
所々、聞き取れないが落ち着く声だ。
微睡み《まどろ》の中、身体が左右に揺れる。
「ーーー!!おい佐乃!!」
大きい声がし、目の前が一気に映し出される。
俺の肩を掴んで慌てたカイの顔に
心配そうな表情を浮かべた葉月に
きょとんしたルル。
ーーどうやら無事戻って来たようだ。
いまいち覚醒し切れてない頭を振り、
みんなに言いたかった言葉を言った。
「ただいま!」
俺はそう言うと
不思議そうな顔をした三人を見て、
自然と笑みが溢れた。
そして改めて戻って来れた事を噛み締めた。