〜選定の儀〜
中に入ると、まず正面の白い大きな十字架に目を奪われた。入り口から目測で約50メートルぐらいはあるだろうか。
そこから視線を上げると、抜けるような高い天井と空中には火のついた蝋燭が浮かんでいた。
壁にはステンドグラスがあり日差しが入っている為、
室内は比較的、明るかった。
「お待ちしてました!どうぞこちらから階段を降り、選定の間へ!」
人当たり良さそうなのが印象の
案内役のシスターに言われ、赤い絨毯を歩いた。
前を歩くシスターが祭壇に一礼したので
俺も一礼しといた。
十字架がある祭壇を横切りった先に階段が見えた。
コン、コン、と石の階段を降りる音が聞こえた。
カイも降りている途中だろうか。
シスターが歩き出すのを見て、後ろをついて行く。
螺旋階段の様になっていて先が
あまり見えなかったが降りて行くにつれ、
前が明かるくなっていくのが分かる。
降りきると、広間が目の前に現れる。
地下とは言え、明かりはちゃんと保たれているようだ。
広間にはずらりと並んだ黒い革張りの椅子があった。
ーーあれに座って選定の儀を受けるのかな?
周囲を見ていると、後ろの方にカイが
座っていてこちらに手を振っていた。
それに応えて、カイの方へ向かうと興奮気味に、
「すげぇなここ!こんな地下の空間があったんだな!しかもこの椅子、マッサージチェアーみたいで気持ちいいぞっ!」
「確かにこんな広い空間があるとはな…」
心の声がそのまま漏れ、言いながらカイの隣りへ座った。うん、座り心地良き。
二人で堪能していると
後ろからどんどん人が来るのが分かる。
みんなこの空間に驚き、興奮気味に
会話しているのが見えた。
「ここ凄いねー!お母さん達に聞いても見てからのお楽しみとしか言われなかったからびっくりしたよー」
「ふかふかー!寝れる私ここで72時間は寝れるよっ!」
後ろに葉月とルルも来たみたいだ。
72時間という具体的な数字はよく分からないけど
確かに寝れそうだ。
「でも座ったはいいけどどうやって選定の儀やんだろうなー」
カイが振り返りながら二人に言った。
まともな質問に葉月が驚きながらも、
「あの前にある水晶に祭司様が魔力を流して、始めるみたいよ」
「祭司様の魔力に反応する様になってるんだよな確か」
「ほぉー!まぁよく分からんからいいや」
そう言うと、カイはルルと話し始めた。
自分から聞いたにも関わらずこれである。
葉月も微妙な顔でこちらを見た。
やれやれと首を振って無言の会話をしていると、
照明が暗くなり始めた。
みんなで行った映画館を思い出す。
照明が一定の明るさまで落ちると、壇上の横から水晶へと歩いている初老の男が見えた。
あの人が祭司様だろうか。
これといった外見的特徴はないが
気品のある振る舞いが見てとれる。
水晶の横で止まるとこちらに向き、一礼をした。
こちらを見渡すと祭司様が話しを切り出した。
「御足労をおかけしました。本日はありがとうございます。早速ですが、選定の儀を進めながら説明させて頂きます。これから水晶に魔力を流し、皆さんが座っている椅子に水晶から魔力を送ります。」
そう言うと、祭司は水晶に手をかざし始めた。
右手が半透明の光を放ち始め、
水晶に吸い込まれていく。水晶が光り始めると
それに合わせて椅子が光り始めた。
光量が最大に達した時に、
椅子の肘置きから小さい水晶が現れた。
カイがびくっと震えていたのは
言わないでおいてあげよう。
「その小さい水晶に自分の魔力を流し込むと、視界が暗くなり、職業選択に移ります。ここで職業を決める訳ですが今後、変えられますので心配なさらないで下さい。ただし、職業を決めた後に
武器を私の前にある大水晶で作成しお渡しするのですが
それは世界に一つ、皆さんだけの武器になります。選択した職業に大きく影響を受けますので注意して下さい!」
水晶が出たのを確認し、祭司が説明を続けた。
整理すると、
ここに魔力を流す→視界がブラックアウトし映像なのか?詳しくは分からないけど選択出来る何かが出て選択する→大水晶の前で
武器作成って感じっぽい。
「そして職業選択を終えますと私達はこれを
【女神の祝福】と呼んでいるのですが簡単に言うと魔法とは別のアビリティーというものをを授かります。単純なアビリティーもあれば珍しいのもあり何に影響を受けるかも分かっていません。儀を受けて初めて分かります。ざっと選定の儀の説明は以上になりますが大丈夫でしょうか?」
周囲を見渡しながら祭司が言った。
みんな少し不安があるのかざわつきはしたものの好奇心と早くやりたいという気持ちが強いのか
あちこちで了解の声が上がる。
「やべぇワクワクしてきたな!すげーアビリティーと武器ゲットしてやる!」
「あぁ!楽しみだ!」
カイが興奮気味に身を乗り出し
ニカッと笑いこちらに手を出して言った。
いつもなら鬱陶しいとばかりにあしらうのだが、
この時ばかりはその手を叩いて応じた。
「分かりました!それでは各々、始めて下さい!女神様の祝福があらんことを!」
その声が開始の合図となり次々と光りが
周囲を照らし始めた。
葉月とルルの方を振り返ると笑顔で頷き、
魔力を流し始めた。
なりたかった剣士に今なれると思うと
高揚が支配する。
ーーさぁやるか!
心の中で覚悟を決め、右手から魔力を流し込む。
手の中の水晶が人肌ほどまでに暖かくなった時に視界が真っ暗になった。