〜木陰で眠る灰色〜
ーー戦闘は一瞬だった…
こちらは防戦一方で斬り刻まれているだけ。
早々と失神され、転移して今に至る訳だ。
目を閉じると頭の中にあの戦闘の
映像が繰り返し流れる。
トドメを刺す時、最後に見た皇の
あの眼はーー弱者を憐れんでいた眼だ。
クラス分けがどうなるかまだ分からないが
悔しい気持ちが胸を締め付ける。
ーザッ
砂利を踏む音が聞こえ、顔を上げると
一人の灰色の髪をした女子生徒が目の前に居た。
一瞬だけ顔を見てすぐに下を向く。
ーーうわっ!真正面で初めて見た!
気まずい…目が合って
すぐ前を向かれた子じゃないか!
無表情ではないにしても無愛想な顔が見え、
どう声をかけたらいいか悩んで
取り敢えず足元を見ていると、
「お邪魔してごめんなさい」
透き通る様な声で言うと、
こちらに背を向けて来た道を戻ろうとした。
「あっ!さ、さっきは
そ、その見てしまいごめんっ!」
こちらを向き直り、手を顎に当て首を傾げる。
ーー何の事か分かってないのかな…
それはそれで有難いが…
「いや!何でもない!あー立ってるのも
何だからここ座ったら!」
言いながら慌てて端の方に詰める。
長椅子だから三人くらいまでなら普通に座れる。
「ありがとうです」
短く言うと、反対側にちょこんと座る。
それから何も喋らず、じっと前を見ている。
ーー気まずい…なんか話した方がいいのか…?
会話の切り出しを
見つけられないまま空を見上げる。
すぐ上に木が見え、
枝葉と枝葉の間から光が差し込み、
日陰に程よい明るさをくれる。
木陰の根元にあるベンチだからか風に煽られ、
上からひらり、ひらりと木の葉が落ちてくる。
風の音と時折、葉が落ちる音だけが耳に届く。
ーー落ち着くなぁ…
ふとどうしてるか気になり、
チラっと横を見るとーー寝ていた。
しかも最初に座った時の
姿勢のまま静かに寝ている。
ーーまぁ確かに!!風も気持ちいいし
木陰があって程よい明るさにはなっているけど!
早くないか?
葛藤しつつも確認の為、
もう一度見るとやはり寝ている。が
その横顔が綺麗で思わず目を奪われる。
芸術は詳しくないが絵になる。
けれど、どこか悲しげな色が
見えるのは気の所為だろうか。
起こすのも悪いし、眠気が来たので
少し寝てしまおうとした時に、
校内放送が始まる音が聞こえた。
『ーー待たせたな!評価が終わった!
壇上の前にクラス分けの紙、
貼り出しておくから確認したら
クラスに向かってくれー!』
『あーったく何で私が
こんな事せにゃいかんのだ…あっ!ブチッ』
教師としてあるまじき音声が流れた気がするが
どうやらクラス分けが終わって、
紙が貼り出されてる様だ。
この声に、隣りの女子生徒も起きた。
「…行きますね。また」
「あっ…うん!また」
その子は言葉数少なく言うと、
すっと立ち上がり、体育館の方へ歩き出した。
不安が募るが、クラス分けは避けては通れない。
俺もまた体育館へと一歩、足を踏み出した。
ーーー
体育館の前まで行くと、
カイが入り口で立っていた。
こちらに気付くと、走って近付いて来る。
その顔はいつものふざけたカイの顔ではなかった。
「おい!どこ行ってたんだよっ!
探したんだぞっ!」
「悪い…少し疲れて休んでた」
「そうか!まぁいいや!それより聞いてくれ!
ルルちゃんが誰かは分かんねーけど
サバイバル戦で…やられて負けちまった!」
冗談を言ってる様子ではなかった。
真剣な目に事実だと言う事が見て取れる。
「ルルが…?集団にやられたのか?」
「分かんねぇ!今、治療してて
詳しくは聞けなかったんだが…一対一らしい」
カイの様子から嘘ではないんだろうけど
正直、信じられなかった。
闘技戦でも一対一の勝負では
負けてる所を見た事がない。
「本当に…?しかも
あんな森林の迷路みたいな場所だぞ?
ルルの機動力と近接能力があれば
かなり有利だと思うんだが…」
「それは思ったけどルル本人が
負けたって言ってたんだぜ…」
「そうか…ルルが気になるな…中に居るのか?」
「いや校舎の治療室に
行ったから中には居ないな!
取り敢えずクラス分けだけでも確認しとこうぜ!」
「そうだな…!」
そう言うと二人で中へと入る。
壇上の前には新入生が集まり、
自分のクラスを確認しているようだ
いよいよクラス発表だ。




