〜日常の一幕〜
ーー朝食を終え、自室で優雅にモーニングティーでも
洒落込みたい所だがそんな悠長にしてる時間もないーー
なにせ、選定の儀は15歳になった全ての人に受ける
義務があるのだ。つまる所、この国に居る
満15歳の人々が一斉に受けに来るのである。
【カストル国】の人口は……
ちょっとよく分かんないけど…
大陸の中でも有数の国である事は覚えてる!
すなわち人口も多い。
行列の出来る有名店よろしく大変、混雑する。
東地区と南地区は午前の部なのでそろそろ出ないと
並ぶ羽目になる。
そうこう考えていると窓の外から、
「佐乃ー!起きてるかー!緊張し過ぎて
ベッドに放水活動してないだろうなー!」
近所迷惑かつ非常に対象相手の名誉を著しく
貶めるような声が下から空を突き刺す。
失礼極まりないこの声は暗めの赤い短髪が
特徴のカイ・ロインだ。
小柄とはいえ筋肉質な身体に鋭い目をした一見、
チン◯ラに見える少年。
カイの父さんも国に勤めている騎士で父さん同士、
同僚という事もあって小さい時からの付き合いだ。
「放水活動もしてないし起きてるよ!
それよりその盛大な寝癖を
どうにかしてから言った方がいいぞ。」
その言葉を待ってましたと
言わんばかりにドヤ顔でカイは、
「ふっ。この無造作ヘアーの真髄が
お前に分からないのか…
やれやれこれだから凡人はダーー」
「……〝魔弾″」
短い詠唱と共に半透明の拳大の球体がカイの頭部に
直撃する。中等部を卒業したいや、
初等部の人間ですら誰でも使える
初歩中の初歩の魔法だ。
鈍い音と共にカイの呻き声が聞こえた。
「お、おい…何も魔法使わなくてもいいだろう…」
「あっ!カイ君、平気?兄さん!
顔はバレっからやるなら腹やりなよ腹」
よろよろと立ち上がるカイに某スケバンの名ゼリフをドヤ顔で言い放つ妹。兄さんは妹の行く末が心配でたまらない…
「そういう問題じゃないっしょ!!水樹ちゃん!!ああっ!!でも気持ちいいっ!!」
身体をモジモジしながら恍惚とした
表情で水樹を見つめて言った。
凄く気持ちが悪い。朝から不愉快だ。とても。
妹にも伝染したのか顔をしかめながら、
「相変わらずだねぇ…
そろそろいい時間だし向かったら?」
「それもそうだねーカイ、そういうのは
家でやってくれ。今、下に行くから」
我に返ったカイが手を振ったのを横目で確認しつつ、
自室の二階から木の軋む音を立てながら階段を降りる。この軋む音も我が家の特徴の一つだ。
一歩一歩、憧れの剣士への道を歩んでいると思うと
自然と足取りも軽い。
玄関に置いといた卒業証明書と役目を終えた
中等部の学生証をポケットに入れて玄関を出た。
四月に卒業し、これを受け取った訳だが、選定の儀を受ける際にこの二つを提示して儀を受ける者となる。
ドアを開けると、舗装された
石造りの道が見えた。窓から外を見ていたが、
実際に出るとやはり気持ちのいい天気だーー
そんな青空の下にカイがアホ面で立っているのが見える。
「佐乃ー早く行こうぜ!並ぶのはごめんだからなっ!」
待ち切れないらしく俺が玄関から出たのを見て、
カイは歩きながら言った。
ーーカイも選定の儀を早く受けたいみたいだな。
「あぁ!楽しみだね!」
ポケットの証をそっと握り、
中央の選定の儀ーー教会へ向かった。