〜入学式〜
ー体育館ー
グラウンドに隣接した薄い茶色を基調とした
外観に赤い屋根が印象の体育館が見えた。
グラウンドが広すぎるからか小さく見えたが、
十分ここも広い。ぱっと見だが
全生徒が中に入っても
スペースは確保出来るであろう。
「はーい慌てなくていいから
ゆっくり中に入ってなー。
転んで怪我でもされたら面倒くさいからなー
あー無職になりたい。」
入り口に眠たげな目に長い薄紫色の髪を
まとめるでも整えるでもなくそのまま
散らかし、黒い細身のパンツに白いシャツを
肘まで捲り上げた若い女性が
気怠そうに案内をしている。
ーーあれが先生なのか…
少し不安になるが一応、学園に選ばれ採用された
先生だし優秀だとは思うけど。
案内に従い、中に入ると椅子が並んであったので
入った人から順々に座っていく。
天井の照明が着席し終えた新入生を照らす。
こうして集まり、始まると思うと緊張してきた…
「おっあの子も可愛い!うーん
あの子もいいな!くそう!選べねー!」
横のカイは緊張などと縁がない様で
呑気に女の子を眺めている。
「佐乃!あの子、すげぇ可愛いぞ!」
「まだ言ってたのか…っ!?」
カイが興奮した様子で右斜め前を指す。
悲しいかな男の子の特性なのか、
凄い可愛いと聞くとついそちらを見てしまう。
三列くらい前の所に座っている
背中まで伸ばした灰色の髪が
特徴の無愛想な横顔が見えた時、
その横顔に一瞬、目を奪われた。
「なっ!間違いなく新入生でユイちゃん
ルルちゃんに並ぶ、いやそれ以上の
可能性を秘めてる美少女だ!」
小声で熱心に語るカイが
鬱陶しかったが確かに美少女だと思う。
聞き流しつつ見ているとその子が気付き、
ほんの少し首を動かしこちらを見た。
「…」
迷惑。とでも言いたげな目をし、
直ぐに前を向いてしまった。
「どんまい。次がある」
ニヤニヤしながら肩を叩いてくるカイに
無性に腹が立つ。
式が始まろうとしてる時だ!抑えるんだ!
自分と戦っていると、
女子の黄色い声があちこちで聞こえる。
前を見ると壇上に品のいい金色の髪を
短く整え、青い瞳に形のいい鼻に薄い唇。
〜国の王子様と言われても疑いもしない、
まさに王子様そのまんまが現実に出た様な
青年がこちらに一礼する。
「けっ!壇上から転げ落ちろ…
イケメン死すべき!ホモであれ!」
赤髪の一方的な恨みを買ったようだ…
「皆さんこんにちわ!
3年S組、生徒会長のライン・アルバートです!」
ラインは爽やかな笑顔で挨拶をする。
女子生徒と一部の男子生徒から
黄色い声と野太い声が体育館に反響する。
「本日はご入学おめでとうございます!
みんなと学園で同じ時間を過ごせると思うと
楽しみで仕方ありません!」
「ここアスラン魔法学園は生徒の
自由と個性を大事にする校風です!
これからの学園生活を全力で楽しんで下さい!」
「長くなりましたが僕からの
挨拶は以上になります!学園内で会ったら
気軽に声かけて下さいね!」
そう言うとこちらに手を振り、
壇上の舞台裏へと消えて行った。
『続きまして、学園長の挨拶に移ります』
アナウンスと共に、
舞台袖から立派な髭を生やした男性が現れる。
顔に刻まれた皺と白みがかった
髪に老いを感じるが、
歩き姿は堂々としてここからでも
がっしりした体格が確認出来る。
「学園長のバレル・フィールドだ。
長い話は好きじゃないから手短に済ませる!
人は過去には戻れない。
この瞬間を全力で生きろ若者よ!
何者にも負けるな!!以上だ!」
「うおおおー!!よっしゃ!!
やってやるぜ!!」
学園長の鼓舞に、新入生達の
やる気に満ち溢れた返事が体育館中を包む。
カイも立ち上がり、負けじと叫び返していた。
胸の奥底から熱いものが込み上げてくる。
『続きましてこれからの
予定についての説明に移ります』
壇上から入り口に居た、女の先生が出て来た。
「えーサクネ・霜月だ。
クラス分けについてだが…えーっと…
あぁ面倒くさい…〝あっちで説明する″」
あっちとはどっちなのか。
そもそもどういうーー
意味なのかと続けようとした時には
目の前の景色が消えていた。




