〜前夜〜
目つきの悪い赤髪が勢い良く店に入る。
「いらっしゃいませ!お一人様ですか?」
「佐乃〜!!あっ一人です。違くて!
そこのテーブルの連れです!」
それを聞いたウェイトレスの女性が
こちらを見る。
「いえ。知りませんそんな人」
「約束忘れられて友人設定も忘れられるとは
どんな仕打ちですか?」
「ごめんなさい」
「謝ればいいと思ってんのか!?あぁん?」
下から凄い角度でこちらを睨みつける。
知らない人から見れば完全に
カツアゲされていると思うだろう。
「カイくんごめんね〜兄さん
すっかり忘れてたみたい〜」
水樹が申し訳なさそうに手を合わせる。
「全然いいよ!人間、誰しも
失敗ってあるから!」
首が勢いよく元の位置に戻ると笑顔で
こちらの肩を組んできた。
「あの…ご注文の方はどうされますか…」
ウェイ子(ウェイトレスの女性)が
聞きにくそうにこちらに言った。
「「「あっ…Aランチ3つで…」」」
それ以降は静かにして待っていると
程なくしてAランチが来る。
鉄板の上に乗ったハンバーグが音を立てている。
それがまた食欲を掻き立てる。
「いやー食った食った!」
「やっぱ美味いね〜ここの」
食事を終え、店を出る。
やはりここのソースは間違いなかったな。
「次は、雑貨屋でいいよね?」
「おう!あそこで生活用品買わないと!」
「あっシャンプー切れてたから
新しいの見よ」
横の二人から了承を得て、
表通りで一際、大きい店構えの雑貨屋へ向かう。
日用品から魔具までここでほとんど揃う。
ハンバーグ屋から近い為、
少し歩くと雑貨屋に着いた。
「あらー店に来るのは久しぶりですねぇ!」
店の前を掃除していた
リリさんに声をかけられる。
「こんにちわリリさんっ!
もぉー会いたかったですよー!」
身体をくねくねしながら
にやけた顔でカイが言う。
中等部の頃、カイが彼女候補が三人居ると
聞いてもないのに話し始め、
その一人にリリさんを挙げていた。
少し垂れた目に華奢な身体。
ショートカットの茶髪が似合う女性だ。
カイ曰く、守ってあげたくなるらしい。
まぁ確実にカイよりは強いであろう。
現役の頃は、女性冒険家として
ギルドでも有名だったらしい。
「ウチも会いたかったよー!
佐乃くんに水樹ちゃんもいらっしゃい!
今日は何の買い物かな〜?」
息遣いが荒々しくなるカイを裏拳で黙らせ、
リリさんに、
「明日、入学式なので寮生活に
必要な物を買いに来ました」
「私はシャンプー!」
「痛い…鼻が右に曲がった…
イケメンフェイスにハンデがついちまったぜ…」
「と容疑者は供述しており、性犯罪を
否認している模様です。現場からでしたー!」
「まぁ…取り敢えず中に入って〜」
苦笑いのリリさんに案内され、店内へと入る。
外観通り、店内も相変わらず広く、
整理整頓された品物がずらりと並んでいる。
「佐乃くんとカイくんはここから
日用品の棚だから欲しい物、選んでねー」
「「はーい」」
「水樹ちゃんはこっちね〜」
そう言うと妹を連れ、奥に進んで行った。
妹はリリさんに任せて問題ないだろう。
カイとあれこれ話しながら
必要な物を選んでいく。
こうして準備をしていると
新生活が始まる実感が湧いてくる。
学院も寮生活も楽しみで仕方ない。
気付いたら割といい時間になり、
必要な物も殆ど揃ったので会計に向かう。
この大荷物は店で学院の寮に転送して
貰えるみたいなので帰路の心配はない。
「リリさーん揃ったので会計して下さい!」
店内の何処かにいるだろうリリさんに
声をかける。
「はーい今行くね〜」
奥の方から声が聞こえ、少しすると姿が見えた。
手に術式が書いてある紙を抱えてカウンターに入った。
この転送術式もリリさんが作ったらしい…
一目見るだけで分かる複雑な術式が
リリさんの凄さを感じる。
「えーっと佐乃くんが3万8000千トルで
カイくんが2万9000千トルねー!
水樹ちゃんのシャンプーはおまけにするねっ!」
こちらにウィンクしながら言う。
「リリ姉さんいつもありがとう!」
「可愛い水樹ちゃんの為ならこのぐらい全然よ!」
水樹が抱き着きながら言うと、
頭を撫でるリリさん。
なかなか絵になる光景だ。
「ふむぅ!目が潤いますなぁ!佐乃氏〜!」
「〝夜光″
妹を変な目で見たらコンマ1で
首が床に転がると思え。」
「ははははははい…」
無表情で首筋に刀を当ててカイに言うと、
奥歯を鳴らしながら
首、いや身体ごと縦に振っていた。
「まいど〜それじゃあ転送するねー
」
そう言うと、術式が書かれた紙を広げ、
詠唱を始める。
「我、空間を司る者なり。ここに
次元の扉を開くーー〝転送″」
淡く光りを放ち、
最後の詠唱と共に目の前の品物が全部消えた。
「凄い…リリさんありがとうございます!」
「流石、リリさんだわ〜!
ありがとうー!」
「リリさんまた来ますねー!」
「いえいえ!また来てね〜!
学院頑張ってね!」
リリさんにお礼を言い、店を後にした。
家に近付いた所でカイと別れ、自宅に着く。
夕飯と風呂を済ませ、自室の荷造りも終わった。
ーー早めに寝て、明日に備えますか!
照明を消し、眠りについた。
明日はいよいよ新生活の始まりだ。




