〜買い出し〜
ーー軽い!!
どんどん身体が研ぎ澄まされる感覚になる。
型も一段とキレが増してる。
一振り一振りが力強く、宙に無数の線が出来る。
「これなら加護が無くてもアビリティーが
使えなくてもいけるじゃないか!」
今までにない感覚に希望が湧いてくる。
悲観的な考えしか浮かばなかっただけに
この手応えは自信に繋がった。
ーーキンッ
鞘に刀を収め、稽古を終えた。
先程までとは打って変わって
表情も気持ちも明るくなるのが分かる。
グッと夜光を握り締める。
ーー強くなれる!!
ーーー
ガチャ
「ただいまー」
どうやら鍵はかけられてなかった様だ。
帰宅を知らせたが妹は寝たのか返事はない。
リビングの照明をつけて時間を確認すると
もう12時を過ぎていた。
「春休みとはいえ
もう少し早めに寝ないとな…」
軽くお湯を浴び、自室へ入る。
明日は色々と準備をしないといけない。
と言うのも明後日は入学式だ。
隣国の【国立アスラン魔法学園】は
特に魔法実技・戦闘実技を
専攻していて大陸中から学生が集まる人気校だ。
学院は全寮制なので
実家を離れるのが
惜しいが(妹とと)致し方ない。
それに父さんも帰ってくる日を
増やすと言ってたので家の心配はなさそうだ。
ーー荷造りしたり買い物もしないとだな。
明日の事を考えてる内に意識が途絶えた。
ーーー
「……うーん」
目が覚めかけ、寝返りを打つと
朝日が窓から差し込んでいた。
目覚めはいい方だが、夜遅くまで
稽古をしてた事もあって少しまだ眠い。
おぼつかない足取りで洗面所に辿り着く。
寝惚けた面が鏡に映り、
すかさず冷水を顔面にぶち込む!!
ぶち込むってなんかテンション上がる。
「ぶち込む!!ぶち込む!!冷てぇ!…ひぃ!」
歯を磨いていた水樹と鏡越しに目が合った。
時が止まった。
「ねぇねぇ!今どんな気持ち?ねぇ!
寝起きの変なテンションで取った行動に
ついてお答え下さい!!」
「いや…その…何でもないんです…」
一瞬の静寂の後、怒涛のツッコミが襲いかかり
俺のライフポイントゲージは
早くも赤色に変わった。
洗面所での激闘?を終え、
身支度を整えて玄関で待ってると
水樹が二階から下りて来た。
「お待たせ〜」
「おん!それじゃ行こうかー」
妹と買い物、行くの久しぶりだな〜
なんて思いながら
玄関を開けようとした時に背中を掴まれた。
「なん!?どした?」
「どしたじゃないわい!!何かないんかい!」
不機嫌な顔をした水樹が
髪と服を指しながら言った。
ーー俺とした事が!!
慌てながらにもその姿を今一度よく見た。
艶のある黒髪にちょっと前にあげた
花の髪留めを付けてくれていた。
黒のワンピースもお似合いだ。
「髪留め付けてくれたんだ!似合うな」
「いけるでしょー良き良き」
機嫌が直った所で改めて玄関を開け外に出る。
温かい日差しに心地の良い風が
時折、頬を撫でる。
絶好のお出かけ日和だ。
それもあって店が立ち並ぶ表通りは
買い物客で賑わっていた。
歩いているとあちこちから食欲をそそる匂いが
嗅覚を刺激する。
「朝飯食べてないからお腹空いたね
先にご飯食べちゃおうか」
「そうね〜あそこのハンバーグにしようよ〜」
前に見えるあの店は
ジューシーさとソースが評判のハンバーグ屋だ。
カラン、カランとドアを開けると音がなり、
ウェイトレスの女性が来た。
「いらっしゃいませ〜二名様ですね!
お好きな空いてる席へお座り下さい!」
どこに座ろうかと店内を見る。
店内はログハウス風の内装で椅子もテーブルも
店長のこだわりで手作りなのか、
丸太をそのまま加工したような内装になっている。
表通り側はガラス張りになっており、
外の様子が見える。
「あそこにしようか」
「了解しやした兄貴!」
ハンバーグでご機嫌なのか
よく分からない設定になっている。
何にしようかとメニューを見てると
視界の端に見覚えのある赤髪が見えた。
外に視線を向けると赤髪がこちらを見て、
険しい顔をし、何か喚きながら
近付いて来るのが分かる。カイだ…
「あっ。忘れてた。今日一緒に
必要な物、揃えようって約束してたんだ。」
「兄さん…そんな事あるんですか…」
カイを見て、こちらにポカーンとした
顔を向けた水樹が言った。




