第五話 特上級クエスト 前編
今回の話はやや長くなりそうで、前後編にしてみました。後編もすぐ投稿しますので、のんびり待ってください>ω<
歓迎会、地理や歴史の勉強、下準備と、気付けば一週間もの時間が過ぎ、ようやくダンジョン潜りの準備が整えた。とは言っても、いまだに夜鳥は一度も戦う姿を見せてくれずにいる、聞けば異世界は至って平和な世の中で、魔法も魔物もないらしい。これでは心配しないと言われて、頷くこともできない。
王国一の剣士であるレーギンの保証がある物の、やはり勇者の力を確かめたい国王、と言うより主に武の知識のない文官の面々がやたらと騒がしい。
仕方なく、ダンジョンに赴く前に、王都の冒険者ギルドにてクエストを受けることになった。王曰く、取りあえず最高難易度にあたる特上級クエストの一つでも完遂すれば皆も認めてくれるであろうとの事だ。
「レジェンドサンダースライムの討伐、ですか?」まさかのチュートリアルと思わせるスライム討伐とは思わなかったが。
「はい、それでお願いします。」
そう言って、夜鳥よりも身長が低い、俗に言うドワーフ種の産れの王都ギルドマスター、ロベルド・レッツェーが説明する。
「本来ならスライム討伐は低級クエストであるが、これはけして嬢ちゃんを揶揄うつもりはないぞう。スライムの最上位種にあたるレジェンドスライムは本来でありゃー、それだけで中級上位のクエストになる、あやつらは物理攻撃が至って効きにくいからのう。それなりに高位な魔法使いを雇わなければ討伐は無理に等しいからじゃわい。」
それに加え、属性持ちの中でも一番希少、尚且つ一番厄介のか雷属性。他属性に対して強い耐性を持ち、弱点となる土属性は、攻撃魔法となると土の塊による射撃だ。幾ら魔力を纏っていようか、性質は物理と大して変わらないのだ、最上位の魔法使い十数人で囲んで、防御と攻撃を分担して、長時間かけてやっと討伐できる程の魔物である。
「ちゅう訳で、レジェンドサンダースライムっでなぁ最悪に面倒臭い魔物に分類するわけだ。幸い元々レジェンドスライム自体レア中のレアなんじゃ、その雷属性種など記録上、前現れたのが400年も昔だぞい。おまけに、何故か鉱山を占拠しておってな、皆困っておるわい。」
「鉱山ですか?」
「おお、去年あたりに発見した鉱山でな、金属に付着する不思議な鉱石が時々掘れるんだ、その性質を研究しようと儂らドワーフ共が躍起なってると言うのにこの有様だ。」
そこまで言って、ようやく事の中心が見えてきた。何のことはない、強い雷属性を持って産れた存在にとって、弱めの電力磁力全般は吸収して力へと変換できる、食事と同じ様なものだ。そして金属に付着する鉱石と言うのは、まず間違いなく天然の磁鉄鉱であろう。
あれは舐めると中々に旨い事は、夜鳥は知っている。鵺と言うのは、その正体は雷獣であると、そうなん説もある。それほど有名ではない説だが、妖怪マニアの中では常識の部類に入る。
そのためが、夜鳥も雷術にそれなりに精通し、体質も獣説がメインの分、雷獣に近い。無論電力は食えるし、磁石は謂わば飴みたいなものだ。その中でも稀に出会える天然の磁鉄鉱は、飴で言えば黒糖べっこう飴、肉で言えば癖の少な目なジビエになる。雷属性、それも魔物随一の雑食生物のスライムからすれば、その鉱山はもはや、女子にとってのケーキバイキング、それも無料、おまけに栄養豊富かつ太ることもないのだ。
「引き受けましょう、雷属性の対応には心得があるので。」
「なんと!それは真か!」
「ええ、雷をある程度操れるので。」そう言って、指の間に電弧作って見せると、ロベルドは驚きの余り椅子から跳び上がった。どうやらこの世界では雷魔法自体が珍しく、また全体的に大出力の放出がメイン。これ程小さく、精密にコントロールされた雷は、300の寿命をもち、現にあと数年もあれば200歳に届くロベルドでも、見たことはおろか、噂に聞くことも一度もない。「流石は勇者様、嬢ちゃん、いや、ヤドリ様にはこの件の全権を委ねよ、儂にできることは何でもするぞい!」だからこそ、気性の荒いドワーフのギルドマスターも、ここに来てようやく夜鳥の実力を認め、敬称をつけて呼ぶようになった。
「では一つ、お願いしたい事が有ります。」
「おう、何なじゃ?」
「こそばゆいので、普通に嬢ちゃんで呼んでください。」
夜鳥が微笑みながらそれを告げると、「こりゃ嬢ちゃんにゃ敵わんな!」と、ロベルドは太腿を叩きながら大声で笑った。