第四話 我が家を持ち運ぼう
ここは都内某所にある高層マンションの一室、2DKにしては約100平方メートルと広々とし、内装は寝室と書斎に分かれて、如何にもな一人暮らし用で、それにしてはいささか広過ぎなくもない。
客観的に見ても、至って普通のマンションの一室である、門の先は除けば、ですが。
「なっ、なっ、なっ、何ですかこの部屋は!」
女騎士セリアーニは、目の前に広がる現代的な、彼女にとっては未来的と言った方がいいかもしれない、そんな部屋を目の前にし、絶叫する。
ここは勇者ヤドリ様、すなわち我らが主人公夜鳥鳴子の、キラールでの私室のはずだ、なのに中身、内装はおろか、面積ですらもまるで別物になっていた。
目線を革と金属で出来ているらしい、黒色の、中々格調のある小さな車輪の付いた椅子に向けると、そこには赤い、腰に太い帯の付いた、異国のドレスと思われる衣装を纏う長髪の幼い女子が座っている。その面影を、辛うじてセリアーニを捉えた。
「ヤドリ…様?」
本来はやや癖のある前髪がスパッと同じ高さに揃えられ、いつも後ろに束ねている髪も下ろしてはいる
が、その容姿、何よりその黒髪と黒い瞳は間違いなく夜鳥その人でだ。
歳は5歳ほど下がっているように見えるが。
「どうだ、座敷童子の力で、私の自室ごと運んできみたよ!」
と、自慢げに笑みを浮かべる着物幼女。
「はぁ、昨日仰っていたヨウカイヘンゲなるスキルの力ですか?これはまた凄い…」
幸いなことに、妖怪変化のスキルは、昨日簡単に国王と他重臣二人、そして付き人のセリアーニに簡単に
説明した。妖怪に対して中々と理解できなかったが、取りあえず「自然や人の心から産れる精霊に近い存在」で納得してくれた。
お陰でセリアーニはなんとか状況を把握できた。
そうして何故このような事が起きたというと、何を隠そう、座敷童子である。
そう、あの最有名妖怪筆頭の座敷童子だ。
とりあえず色々の妖怪の力を試そうと、一番安全だと思われる座敷童子の変化から試した夜鳥は、まさしく世紀的な大発見を遂げる。
座敷童子は屋敷の守護者として、憑りついた家と一体化するのだ。
本来夜鳥の異世界転移は自分自身のみに限るが、自身の一部になった家は、丸ごと異世界に転移できる。
結果としては、転移先の部屋が、能力を維持している限り、丸ごと元の自室に置き換われるのだ。
更には家の物を所謂念動力で動かせるおまけ付き、まさに致せり尽くせり、敢えて言えば、発動中は家から出られないのが唯一の不満になる。
「まぁまぁ、立ち話もなんだし、入りなよ。あっ、靴は其処で脱いでね。」
「はっ、はぁ…」
何を出そうかな、取りあえず菓子でいいかな、女子なら甘い物は定番だし。そう考えると、冷蔵庫の扉を思念で開き、チーズケーキを取り寄せる。
突然開いた、冬並みの冷気が漏れ出す金属の入れ物棚から、皿に乗った黄色い三角の塊が二つ、勝手にぷかぷかと浮き上がり、夜鳥の方に飛んでいくのを見て、顔を引きずった物り、案内された和室の畳の触感に不思議な表情を浮かばせ、止めはチーズケーキを口に入れる時の驚き顔と、その直後に蕩ける様な笑み。女騎士の百面相は中々と愉快だ。
「そう言えば、これでダンジョンに入っても休憩所に困らないな。」と、そわそわと寝室の畳に腰を下ろすゼリアーニに、茶を入れながら、夜鳥は楽しそうに笑いながら思った。
と言う訳でこれからもたびたび登場する予定の座敷夜鳥のお披露目です。長さ的には四話と言うか3.5話に近いが、いいところで〆れたのでこれぐらいにしました。