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第一話 勇者様は正体不明系?

 ハイディリアと別れ、異界の地上に転移された夜鳥が目を開くと、そこは何やらルネッサンス調の建築物、おそらくは神殿である場所に立っていた。目の前には如何にも司祭風の衣装を纏う男女が十数人、服装からしては王侯貴族、冠があると言うことは国王であろう男性が一人、壁際には騎士らしき、鎧を纏った人が十人ほど。

「へぇ、ここが異世界か、思ったより普通じゃない。」

 確かに中世前後の欧州相当の文明だと考えれば至って普通の光景である。だがこの感想は、現在の状況に置いて極めて空気を読まない発言であるのは言うまでもなく、もしくは夜鳥はそもそも空気なぞ読む気がないかも知れない。

 実際目の前の人々は揃って呆気に取られ、国王と思われる男性は「えっ?」と間抜けた声すら発した程だ。

 それでも一国の王を務める身であるがゆえ、何とか正気に戻り、夜鳥を神殿より王城へと迎え入れた。どうやら勇者であるはずの夜鳥が見た目通りの女子供だと思い、大いに驚いたらしいが、夜鳥の「どうも、女神様のハイディリアさんに、この世界を助けてと言われて来ました。」との発言を聞くやいなや、齢50を超えているにも関わらず、まるで片思いの美女に自分の恋心を認められた、そんな少年のような笑顔を夜鳥に見せた。

 それからの手続きなどは、どうも一週間以上前から準備されているらしく、驚くほどすんなり完了し、夜鳥は晴れてキラール王国の特別名誉子爵の称号を手に入れた、余談ではあるが、王国史上初の女当主らしい。

「いいやつらだけに、哀れだな。」と、異様、或いは当然の高待遇に、密かに思う夜鳥であった。彼女は知っている、今回の事件も、引いては曾ての魔王誕生も、どうせすべてが神々ら娯楽のための茶番に過ぎない事を。

「まぁ、そればっかりはどこの世界も変わらないが。」

「はい?何か仰いましたか?」

 小声を漏らした夜鳥に話をかけたのは、日本のマニア諸君らの目に入れる事が有れば、大いに喜ぶであろう、薄い青色の長髪と同じ色の、宝石のような澄んだ瞳をもつ、麗しき女騎士である。名はセリアーニ・ローズヴェラ、名高い(らしい)ローズヴェラ伯爵の次女にして、王城の女性近衛兵の隊長格。キラール王が夜鳥に気遣って、わざわざ同性を護衛に配備したらし、案内人役としても、実にありがたい。

「いえ、ただの独り言です。」

「そうでしたか、もし何があったら必ず私目にお申し付け下さい、即座に対応いたします。私目はヤドリ様の護衛兼案内人ですので。」

「じゃ私の事をめいちゃんっで呼んで。」

「なっ!そのような大それたこと!」

「冗談だよ、ジョウダン。」と慌てふためく女騎士さんをニヤニヤと見つめる夜鳥はある意味妖怪らしいく、実に悪趣味であった。

 そう、夜鳥は見た目こそ女子高生、引いてはぎりぎり中学生にすら見えるが、その正体は千の歳月を生きてきた大妖怪である鵺だ、人を揶揄う事は大の趣味であり、それこそ天皇様であろうと関係なしに、お陰様で一度実体が完全に消滅するレベルでの退治を受けた事があったは、実に懐かしき千年も昔の話。

 そんな彼女の次の悪戯に選ぶ大物と言えば、言うまでもなくこの国の王様である。お誂え向きに、最高に彼女らしい「スキル」がある。

「ふっふっふっ、皆さどんな間抜けた顔をするのかな、楽しみだ。」

 そう考えながら、勇者の歓迎会にて、取りあえずその大食いっぷりで、その場にいる全員を驚かしてみた。

 そりゃ15、6歳にしか見えない、幼い少女が、たやすく十人前もあろう料理を十数分も立たぬうちに完食すれば、驚かないという方が奇怪であろう。尚当の本人は「召喚による身体能力向上の対価で、お腹がすぐに減るんだ。」と、説明した、その実は思念体故に、食わず眠らずして生きることができ、その上食べたければ幾らでも食せるのだ。無論これは秘密、ばらせば妖怪がどうのこうの以前に、世の妙齢の甘党女子から殺意にまみれた視線が降ってくるに違いない。女子高生として日本各地を転々と十数年生きてきた夜鳥だからこそ、その怖さは良く知っている。

 そんなんこんなで就寝の時間を迎えた、が。

 狸寝入りをし、護衛が部屋にいないのを確認してからは、夜鳥は試しに女神から貰ったスキル、「妖怪変化」を使う。

 全力全開にで煙々羅の能力を使ってみると、なんと体が煙へと変わっていくではないか。扉の隙間を通り、外に出てみると、相も変わらず麗しきセリアーニは目を光らせて門を守っている、当然夜鳥を認識することはない。

 煙々羅と言うのは、要するに人の型に見える煙の妖怪、そしてその姿は、煙を延々と眺められるほどに暇人でもなければ見えないと言われている。どうもそれはれっきとした事実であり、王城を散策しても、誰一人に気付かれることはない。

「これは便利だな」と、満足した夜鳥は、日が明けるとともに、部屋にふらりと帰って行った。

 そして次の日、予定通りに、事件は起きた。首謀者は言うまでもなく我らが主人公である。

「ステータス、すべてが「認識不能」だと!」

 ざわ…ざわ…と、宮廷魔術長の言葉に、動揺が広まる。

 これこそ夜鳥の、妖怪鵺の真骨頂、その正体を確認することはできず、ただただ恐怖が広まる。

 スキル「正体不明」、この世において、彼女だけが持つ能力、何人たりとも、彼女の真実を覗くことはない。名前種族年齢スキルを含む全ステータスが、自分以外の存在に認識されなくなるスキルである。

 間違いなく、これほど不安を募らせた勇者は、過去にも未来にも彼女だけだと、後のキラール王国の、引いては全フェルカニア大陸歴史家たちが語る。その上、その歴史を記す書物全般に、鵺の名を見ることはない。


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