でも〇〇だ!
久しぶりに短編を書いてみた!
それは冴えない高校生男子のグループだった。
運動も特別出来る訳でも、勉強が特別出来る訳でもない。
クラスではその他大勢――モブと呼ばれるような男子たちは、下校中に信号待ちをしていた。
一人が頭の後ろに手を回し、そして代わり映えのしない毎日に嫌気が差したという表情で口を開いた。
「なんかさぁ、俺たちってなんなんだろうな? 俺たちの人生、このままその他大勢みたいな扱いで終わるのかな?」
そんな事を口にする友人に、一人が反論した。
「急になんだよ。なら何かやればいいだろ。勉強とか、スポーツとか」
言われた方は腕を振るってそうではない、と力説する。
「違うんだよ! 結局、俺たちがどんなに頑張ろうとその他大勢なんだよ! 分かるか? 勉強? 頑張って順位を上げたとしよう。……で、どんな大学に行けるの? 最高学府の東大にいけるのか!」
最高学府の東大――大学自体が最高学府で有り、意味としては間違っている。この勝ち気そうな男子の学力を察するには十分だろう。
最初に反論した真面目そうな眼鏡の男子は、それを聞いて口ごもった。
「そ、それならスポーツで――」
「それも違う。いいか、世の中は理不尽なんだよ。スポーツで活躍している選手がいるだろ? あいつら最初から凄いんだよ。凄い上に努力している連中に、努力しただけの俺が勝てると思うのか?」
この勝ち気そうな男子は努力もしていないし、比べる事すらおこがましい。
もう一人、小太りの男子が頷いていた。
「分かるわ~。顔の良い奴は人生勝ち組で、女子にモテて幸せだもんな」
眼鏡をかけた男子が、そんな小太りの男子に言い返す。
「ならもっと努力を――」
「分かってない!」
勝ち気そうな男子と、小太りの男子の声がハモった。
「いいか、顔の良い奴らが頑張って身なりを整えると周りは褒める。だが、俺たちはどうだ? ……鼻で笑われて終わりだ」
「間違いない!」
やらない内から諦めている二人に、眼鏡をかけた男子は視線を逸らした。
「あ~そうですか。なら、そのままでいいんじゃないか?」
小太りの男子よりも太っている男子は、気が小さいのか何かを言おうとして躊躇っている。
それに気が付き、勝ち気そうな男子が声をかけた。
「なんだよ、言いたい事があるなら言えよ」
「あ、いや……その……結局、どうしたいのかな~って」
勝ち気そうな男子が天に向かって叫ぶ。
「このままモブとして人生を終えたくないんだよ! 若者の未来は明るい? なら大人の未来は暗いのか! 俺たちみんな大人になるんだぞ!」
どこで聞いたのか、気に入った台詞を言ってみた勝ち気そうな男子。
眼鏡をかけた男子は呆れていた。
背の低い、小柄の男子は苦笑いをしていた。
「でも、モブはともかく勝ち組の人生を歩みたいよね」
そんな話をしている下校途中の男子五人。
横断歩道の信号が、赤になったので立ち止まった。車が動きだし、男子たちは早く信号が青にならないか待っている。
「はぁ、誰か俺の人生をもっと劇的にしてくれよ」
勝ち気そうな男子がそう呟くと、一台のトラックが男子生徒五人に突っ込んでくる。気が付いた時には既に遅く、五人は巻き込まれ命を落とした。
『いいよ、その願いを叶えてやろう』
そこは真っ白、という言葉が似合う場所だった。
その白さは遠近感どころか、上下の感覚すら狂わせられそうになる。黒い学生服を着た男子五人は、気が付いたらそこに立っていたのだ。
周囲を見渡すと、声が聞こえてきた。
『さて、天に願いが聞き届けられたそこの五人。劇的な人生がお好みなんだって?』
声はどこから聞こえてくるのか分からない。
だが、五人が周囲を見ていると、声は溜息を吐いて事情を説明した。
『そういう当たり前の反応はいいから。時間の無駄だから。ほら、さっさと希望を言ってごらん。次の人生……君たちの望みを叶えてあげよう』
その言葉に五人が困惑していると、眼鏡をかけた男子が小さく手を上げた。『はい、そこの眼鏡君』そう言われ、眼鏡をかけた男子が口を開く。
「あ、あの……次の人生とは一体?」
声は淡々と答える。説明が慣れているように感じるのは、気のせいではないだろう。
『君たちは死にました。もう、生き返ることは不可能です。だから、転生して人生をやり直しましょう。その前に、次の人生の希望を聞いてあげるって話ね』
すると、勝ち気そうな男子が両手を上げて叫ぶ。
「異世界転生か!」
だが、声は呆れていた。
『なに? それって流行なの? 馬鹿だろ。転生するのはこの世界。地球での話です。なんだよ、異世界って。俺の管理に文句でもあるの? 喧嘩売ってるの?』
どうやら、異世界に行きたいなどと言えば声の機嫌を損ねてしまうようだ。
しかし、五人話し合う。
「異世界じゃないのかよ」
「なんで残念そうなんだよ!」
「でも、それでもよくね? 異世界とか送られても、正直困るって」
「た、確かに大変そう」
「でも、地球でも場所によっては……」
残念がる勝ち気そうな男子を諫める眼鏡君。小太りの男子は次も日本なら、と期待し、太っている男子も同じ意見だ。
小柄な男子もやはり日本を希望するらしい。
代表して勝ち気そうな男子がたずねた。
「あの~、転生先の国は選べるんでしょうか?」
『希望有り? 別に良いよ。というか、基本的な条件は死んだ後の世界に転生だし。日本が良いなら、それでいいよ。性別とか変えたい?』
希望なら聞くと言われ、五人は何かを言おうとする。だが、声は少し強い口調で言うのだ。
『ただし、転生先の国を選んだんだ。希望は一人につき一つしか受け入れない。このまま転生すれば、魂に引きずられ君たちの肉体は今の姿に成長するだろう。いいか、それをよく考えて希望を出すんだ』
再び五人が円陣を組む。
勝ち気そうな男子がすぐに希望を口にした。
「俺、サッカー選手になってスタープレイヤーになりたい! テレビで毎日報道されて、美人の嫁を貰うんだ。億を稼ぐプレイヤーになるぜ!」
そうして、勝ち気そうな男子が一番に希望を出した。
「スポーツ選手として凄い才能って言うか肉体が欲しいです! 世界一の選手が良いです!」
馬鹿っぽい提案に続き、眼鏡君も希望を述べる。
「なら、俺は頭が良くなりたい。それこそ世紀の大天才とかそういうレベルで」
眼鏡君もそんなに頭は良くなかったようだ。
小柄な男子も負けないとばかりに提案する。
「ぼ、僕は大金持ち!」
小太りの男子はニヤニヤしながら。
「じゃあ、俺は美人に好かれるのがいいな。逆玉を狙ってやるぜ!」
出遅れた太った男子だったが、それが太った男子を救うのだった。
声は少し低い声で笑っていた。
『いいぜ。叶えてやるよ。まずはそこの馬鹿そうな奴。というか、お前らみんな馬鹿そうだな……一番馬鹿そうな奴!』
勝ち気そうな男子を、全員が振り返って見ていた。
声は続けた。
『希望通り、お前をスポーツ選手として最高の状態にしてやろう。……だが、同時にその空っぽの頭はもっと馬鹿になって貰う!』
「は? はぁぁぁぁ!! なんだよ、それ!」
納得できない勝ち気そうな男子に、声は楽しそうに告げるのだった。
『誰が希望を叶えるだけ、って言ったよ? メリットがあれば、デメリットだってあるものだろ? それとも、無償で願いを聞き届けるとでも思ったのか? ほら、馬鹿はさっさと転生しやがれ』
勝ち気そうな男子の真下に黒い穴が開くと、そのまま落ちていく。
「馬鹿になるのは嫌だああぁぁぁぁぁ!!」
今でも十分馬鹿であるが、更に馬鹿になるというのはどういう事なのか? 眼鏡君が青い表情になっていると、声は言う。
『さて、次はお前だよ、眼鏡君。そうだな~、よし! 君は凄く頭を良くしてやろう! 本気を出せば、人類が数百年かけて到達するレベルを数十年で可能とするくらいのレベルだ! ……でも、体は虚弱体質ね』
眼鏡君は嫌だという前に穴に落とされた。
ガクガクと震える小柄な男子に、声は笑いながら伝えた。
『大金持ち? いいぜ、叶えてやるよ! でも、金を持ちすぎて自由なんかない人生だろうけどな!』
小柄な男子も黒い穴に落とされた。
小太りの男子が、後ずさりして困っていると……。
『ふむ、しかし男が女を求めるのは本能だからな。それを責めても……』
「で、ですよね!」
希望が見えたと明るい表情になる小太りの男子だったが、次の瞬間に二種類の意味で落とされるのだった。
『でもデメリットは必要です! 残念、君がいいなと思った相手は、君を好きになる。……でも! 好きになった相手はみんなヤンデレになります!』
声がヤンデレという言葉を発すると、小太りの男子が叫んだ。
「俺、ヤンデレは趣味じゃ――」
最後に残ったのは太った男子だけだった。
『さ~て、ここまでを見てお前は何を願うのかな? う~ん、気になるなぁ~』
楽しそうな声に息をのみ、太った少年は頭を抱え必死に考えた。
(何かを願えば、同時にデメリットが発生する。どうしたらいいんだ。どうしようもないデメリットとかそんなの……そうだ!)
太った男子は、声にたずねた。
「あの、デメリットの方を先に言ったらどうなるんでしょうか? 先にデメリットの部分を決めた場合です」
声は舌打ちをした。
『ちっ、それならまぁ……そのデメリット分くらいのメリットを用意してやるよ。仕方がないからな。……なんなら、メリットの部分にも少しくらい希望を聞いてやってもいいぜ。先にデメリットの部分に気が付いたご褒美だ』
太った男子は「やった!」とガッツポーズをした。
「な、なら……」
(どうしよう。でも、デメリットも自分が気にしないようなものにすれば……いや、自分にとってはメリットのようなものにしたらどうだろう?)
太っていることで、女子に笑われるのが嫌いであった。
だから、太った男子は言うのだ。
「女性に無視されるとか? あの、メリットの部分は美人な幼馴染みというか、結婚できる女性が欲しいです」
声はそれを聞いて考え始めた。
『う~ん、無視か。無視……かなりのデメリットだな。それに対するメリットが、小さすぎて釣り合わない。どうせお前の理想のつがいが欲しい、って事だろ? でも、それでも釣り合わないんだよな……そうだ!』
太った男子が失敗したと思い、どのように訂正するか考えていると声が提案してきた。
『デメリットは女性からの無視。というか、認識されにくい、でどうよ。メリットの部分は“絶世の美女に異様に好かれる”でどうだ? デメリットの部分も薄くなりつつ、メリットの部分はより良くなっただろう!』
太った男子は、それを聞いて安心した。
「そ、そうですね。なら、それで――」
『でも待てよ。それでも少し足りないな。そうだ! お前の周りに絶世の美女を三人配置してやろう。三人は気立ても良く、お前の理想で通りで優秀にもしてやる。羨ましいな~。さっきの四人と比べると段違いだよな~』
太った男子は苦笑いをしていたが、それを聞いて安心するのだった。
(よ、良かった。なんとかなった)
そして声は優しい声を出す。
『さぁ、楽しい第二の人生の始まりだ』
太った男子が真下に出現した黒い穴に落ちると、声は最後に言ったのだ。
『段違いだ。お前は段違いに欲をかいた馬鹿だったよ』
◇
十六年後。
日本のある地方都市に転生した男子五人は、これも運命なのか同じ学年、同じクラスになった。
スポーツ推薦で高校に入学した勝ち気そうな男子――いや、もう話題の高校球児は、校舎裏でパンを食べていた。
「凄ぇんだぜ。どこかのスカウトの人が、入学したら毎日焼き肉食ってもいいって言うんだぜ! 俺、絶対にそこに入学するわ!」
馬鹿っぽさに磨きがかかり、サッカー選手になるはずが野球部に入部して一躍時の人となった。
投手になれば、ストレートしか投げないのに三振の山。持って生まれた才能か、急速は一試合を投げ続けても百六十キロ台をキープできる。緩急を付けて三振の山を築き上げ、バッターボックスに立てばホームランを量産する。
あまりの異常さに、それまで県予選の初戦で負けるようなチームが勝ち進んだ。しかし、ワンマンチームの穴をつかれ、勝ち気そうな男子の全打席を敬遠で押し出し。
他のバッターが打てるわけもなく、互いに点の取れない試合が続いた。
だが、この試合で勝ち気な男子は有名になった。なんと、延長全てを投げきり引き分けとなった次の日。元気一杯でマウンドに登場した。
その日も最後まで投げて引き分け。
最終的に、相手チームが泣きながら敬遠を止めて試合に臨んだのだ。相手チームの心を折った天才球児。
そう呼ばれていた。
だが、事実は違う。
プロの球団に入団することを入学といい、しかも野球のルールも理解しているわけではない。勘でプレイをしているのだ。
その勘が素晴らしいから、今までボロが出ていないだけである。
本人はただの馬鹿だ。
青い顔をした眼鏡君が、息を切らしながら勝ち気な男子に言う。
「ば、馬鹿野郎。そ、それ……騙されて……かはっ!」
病弱ではないが、とにかく体力がないのが眼鏡君だった。天才的な頭脳も、勉強する事にさえ息切れする眼鏡君では宝の持ち腐れである。
人前で発表など出来る体力すらない。
そして、その頭脳は今や眼鏡君の足でもある勝ち気な男子の未来に費やされていた。
「なんでだよ! 毎日、焼き肉だぜ!」
「お、お前……自分の価値が分かっているのか? メジャーからもスカウトが来ているんだぞ。毎日焼き肉なんか、安すぎて……喋り疲れた」
勝ち気そうな男子が、空を見上げ「メジャーって何県にあるの?」というので他の三人が「アメリカ」と言えば。
「俺、アメリカ語なんか分かんねーもん」
そう返事をしてきても、周りは「またか」と言うだけだった。
これが、最高のスポーツ選手と頭脳を頼んだ勝ち気そうな男子と眼鏡君の現状だった。
小太りの男子が溜息を吐く。
「はぁ、それより聞いてくれよ。この前、凄く好みの女子がいたの。ほら、あの有名なお嬢様学校の」
五人の通う高校の近くには、とても有名な女子校があった。お嬢様たちが通うような学校である。
小太りの男子は続ける。
「それでいいなぁ~、って思って声かけたんだよ。相手も美人だし、俺ならそれだけで相手が惚れてくれるし……でもさぁ、なんていうか食べたい系のヤンデレだったんだよね」
太った男子が首を傾げた。
「食べたい系? 性的な意味で?」
小太りの男子は首を横に振った。好きになって声をかければ、相手は自分に惚れてくれる。しかし、付き合う内に段々と相手がヤンデレになるのだ。
関係を持つ前に別れれば問題ないと分かっており、小太りの男子も今は相手と付き合い観察することを覚えていた。
その代償に、小太りの男子と付き合った女性一人は遠い田舎で軟禁生活。
もう一人は堀の中だった。
小太りの男子のお腹と背中には、包丁での刺し傷がある。
「いや、食事的な意味だよ。この手のタイプは二つなんだよな。惚れた相手に自分を食べさせて一つになるのか、惚れた相手を食べて一つになりたいのか。今回は後者だった。別れるのが間に合って良かったぜ」
幾多のヤンデレを見て来た小太りの男子は、一回りも二回りも大きく見えていた。
溜息を吐く小太りの男子。
「はぁ、どこかに良い塩梅のヤンデレ、っていないかな? 束縛が強くなくて、食べる系じゃなく、女を見ただけで発狂しないような――」
多くのヤンデレを見て来たのか、小太りの男子はヤンデレに五月蝿くなっていた。
太った男子が、落ち込んでいる小柄な男子を見た。
「今日は登校できたね」
「……うん。この前は結婚式だったんだ」
金を持ちすぎて、最早法律など金でどうとでもなる小柄な男子。だが、それで自由かと言われるとそうでもない。
小柄な男子が小さい体を震えさせる。
「お金が増えていくんだ。増えて、増えて……使い切れないのに、業務提携だなんだのと言って政略結婚だよ。相手、四十代後半の未亡人。俺、これでバツ三なんだけど」
色々と金に関わる複雑な事情と、政治的な取引や後ろ暗いなにやらで小柄な男子は高校生にして結婚四回。離婚三回という状態になっていた。
しかも、家に戻れば仕事が待っている。
金を稼いでいるのは小柄な男子だが、その金を使う暇がないらしい。
そんな小柄な男子が高校に通う理由?
それは誰にも分からなかった。
眼鏡君が呼吸を整え、勝ち気そうな男子に色々と説明して入団の件は保留にさせることに成功していた。
流石は人類最高の頭脳。これ程の馬鹿にもしっかり理解させるのは凄まじい。
しかし、人類最高の頭脳が、馬鹿の相手をしているという勿体なさ。
「そ、それよりもお前の方はどうなんだ? ほら、絶世の美女云々の奴だ」
太った男子が暗い笑みを浮かべて笑っていた。
「絶世の美女ってさ……その辺にいないから絶世の美女なんだよね。それに、家族が絶世の美女の基準とすると、テレビを見ていてもそんな人は見かけないし」
美しすぎる家族……ただし、旦那と息子は別! な家庭に転生した太った男子。
絶世の美女であるのは母親と姉、そして妹……三人とも家族であった。
「今もあの声がどこかで笑っているような気がするよ。僕はなんて馬鹿だったんだ。もっと普通で良かったのに!」
勝ち気そうな男子が、首を傾げた。
「なら三人の内の誰かと付き合えば良いだろ。他にいないんだろ?」
理解してなさそうな勝ち気そうな男子だが、問題はそこではない。
太った男子にとって、もうその三人は家族である。
「いや、家族に恋愛感情とかないよ。だって家族だよ? 母さんは、時々政治家を踏んで罵声を浴びせているけど優しいし。姉さんは悪い連中に絡まれるといつも助けてくれるし。妹はおしめも僕が替えたことがあるんだよ。そんな感情はわかない」
勝ち気そうな男子に、そもそも家族とは付き合えないと言っても「なんで?」と返ってくるだけだ。
眼鏡君が一生懸命に説明している。
小柄な男子が、小太りの男子に聞いてみた。
「なら、こいつの家族に狙いを付けてみたら?」
太った男子も別に気にしない。
しかし、小太りな男子が首を横に振った。
「俺は美人限定なの。絶世の美女とか範囲外。そもそも、あの三人が人間かどうかを俺は怪しんでいるけどな」
小太りな男子曰く、あの三人は人間とは思えないらしい。
性格はとてもいい。
母親が踏んでいる政治家も、テレビでは真面目で誠実そうな男性議員だ。しかし、絶世の美女である母親に踏まれ喜びとストレスの発散を行っている。
それだけで満足だと言うのだ。満足させてしまうのだ。
姉もおかしい。
女性が大の大人を相手に喧嘩をして負けない。少し怖そうな大人たちを相手にしても負けない。エロ漫画や同人誌のような仕返しで大変な事に! なんて展開も起きずに当然のごとく勝ってしまう。
妹も凄い。勉強は出来て当たり前。
スポーツでは全国連覇が当たり前。
家族三人揃って、芸能事務所がスカウトに来る事も珍しくなかった。
小柄な男子が、虚ろな目をして太った男子を見ていた。
「か、金の力で不幸に……」
どこか鬼気迫るものを感じるが、それも無理である。三人とも、どこか大きな権力と繋がりがあった。
金を稼ぐことには小柄な男子には勝てないが、それでも権力や武力ではいくらでもやり返せるのだ。
小太りな男子が首を横に振る。
「止めておけ。関わるな。それが一番だ」
美しく優しい家族に囲まれる太った男子。
小柄な男子が泣きながら不幸を探す。
「嘘だ! 絶対になにか嫌なところがあるはずだ! そ、そうだ! 父親だよ! お前の父親は、絶対にお前をのけ者に――」
太った男子が遠い目をした。
「父さんが言うんだよ。『お前を見ていると、俺の子共だって安心する』って」
あまりにも美しく優秀な姉と妹を、自分の娘だと信じられない父親。そして、どうしてこんな美人な嫁と結婚できたのか、未だに理解していなかった。
更に、家庭内は幸せそのもの。
父親がのけ者にされているわけでもない。
小柄な男子が、泣きながら「不幸になれ! みんな不幸になれば良いんだ!」と叫んでいた。
太った男子が憐れに思い、自分の欠点を話し始める。
「でも、僕って女子には無視というか認識されにくいんだ」
「それがなんだよ!」
小柄な男子が泣いていると、小太りの男子が背中を叩いて慰めていた。
「無視に近いというか、そこにいるのも分かってないんだよね。電車に乗っていると、いきなり真正面からぶつかったことがあるんだ。でも、相手は最初に僕にぶつかったことも分からないの」
生活には困らないが、本当にいないように扱われる。
絶世の美女には好かれるが、太った男子はその他の女性に興味すら向けられない。
好きの反対は嫌いではない。認識もされない無視である……それを、太った男子は実体験にてようやく理解した。
「この人いいな、って思っても相手は僕のことを知らないの。三年間、同じクラスだったのにだよ? 告白しても『え、誰?』って言われるの。その後も、告白されたことも忘れてるんじゃないかって……」
小柄な男子が叫ぶ。
「でも、家に帰れば絶世の美人がお前を温かく迎えてくれるんだろうが! 俺なんか……俺なんか、危ないからって毒味役がいていつも冷めたご飯しか食べられないのに。暖かい家庭があるだけ幸せじゃないか!」
だが、太った男子には三人は家族であり、恋愛対象ではないのだ。
どこまでいっても家族は家族である。
つまり、このまま絶世の美女が現われなければ、太った男子はずっと女性と付き合えないというわけだ。
誰もが幸せとは呼べない男子五人。
今日も勝ち気そうな男子の声が校舎裏に響く。
「アメリカって英語で会話するのか! アメリカ人って、頭が良いんだな!」
書いた後に思ったのは、転生の部分はいらなかったかなって。